約 4,169,943 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2200.html
目を開けると、書類と機材とよく分からないガラクタの山の中にいた……。 また、ここで夜を明かしてしまったらしい。 時空管理局技術開発部、第六特別分室――通称、螺旋研究所。 数ヶ月前に配属された新しい職場の、真新しい自分のデスクの上で、シャリオ・フィニーノは大きく背伸びをした。 背中に掛けられていた毛布が、その拍子に床に落ちる。 「……起きたか」 研究室の奥、壁面に設置された巨大モニターの映像を眺める上司が、振り返ることなくシャリオに声をかける。 気付かれる程の音は立てていないのに……上司の感覚の鋭さに、シャリオは内心舌を巻いた。 「しょちょー、何観てるんですか?」 気安そうな声を上げながら、シャリオは上司の隣へと歩み寄った。 答えを期待していた訳ではない……現にこの男はシャリオの問いに、沈黙を返すだけだった。 モニターの中では、シャリオの友人兼元上司――フェイトがムガンの大群と激しい攻防を繰り広げていた。 フェイトの紹介でこの男――第六特別分室室長、ロージェノム・テッペリンの助手になってから数ヶ月が経つが、シャリオは未だにこの新しい上司に馴染めずにいた。 技術者としての力量の高さや異常とも言える知識の深さは、今のシャリオでは足元にも及ばない……その点は素直に尊敬出来る。 しかし能力と性格が等しく信頼に値する人間は意外に少なく――元上司のフェイトとその愉快な仲間達は殆ど全員が該当しているが――それはこの男も例外ではない。 寧ろロージェノムの場合、シャリオが今まで出会ったどの人間よりもその傾向が顕著なのである。 アクが強いと言い換えても良い。 普段は周りで何が起きよう顔色一つ変えないのに、妙なところで突然熱血のスイッチが入る……この男の「ツボ」とでもいうべきものが、シャリオには全く理解出来ない。 今も、モニターに送られてくる戦闘映像――ムガン相手に苦戦するフェイトの姿を見ながら、この男は眉一つ動かさない。 自分は不安と心配から今すぐにでも目を逸らしたい位だというのに……。 この人にとってもフェイトは知らぬ中ではないだろうに……冷徹とも言えるロージェノムの態度に、シャリオは内心嘆息を漏らした。 自分の気に入ったものを地面の下に埋めるという上司の迷惑な性癖も、何とかして欲しいとシャリオは思う。 これは最近になって気付いたことであるが、この男はやたらと何かを地面に埋めたがる。 貴重な文献、研究成果、最新型の機材、思い出の品……この男の暴挙によって意味もなく土の中に葬られたものは、数えるだけで嫌になる。 ロージェノム曰く「万が一の時のための未来への遺産」らしいのだが、未来よりもまず今に目を向けて欲しいと切実に思う。 事態に気付いたシャリオの必死の発掘作業――おかげでせっかくの休暇が潰れた――によって一部のものはサルベージに成功した。 しかし未だ多くの要救助者がミッドチルダ中の地下に眠っていることは間違いなく、そしてシャリオの目の届かぬところで新たな犠牲者が出ている可能性も否定出来ない。 それは例えば螺旋力を利用した新型の次元転移装置。 そして例えば……。 「何、これ……?」 突然の地面崩落に巻き込まれ、地下空洞に落ちたスバルは、目の前に広がる信じ難い光景に思わず呟いた。 隣のティアナも同じような顔をしていることから、どうやら「これ」は夢でも幻でもないらしい。 20mは落ちたようだが、バリアジャケットのおかげで自分もティアナも擦り傷程度の怪我で済んだ。 それだけは――否、もしかしたら「これ」も――不幸中の幸いだったといえるだろう。 ……何故、自分達がどれだけの深さまで落下したのかが解るか? 簡単である――今、自分達二人の目の前に佇む鋼の巨人が、大体それ位の大きさなのだから……。 「これって、ガンメン……?」 呆然と呟くティアナの声が、スバルの鼓膜を震わせる。 ガンメン……ああ、確かにこれはガンメンのようにも見える。 しかし今自分達の見上げているこの一本角の巨大ロボは、少し前まで自分達の戦っていたガンメンとは何もかもが違う。 ムガンに比肩する程の機体の巨大さ、人間と同じようなプロポーション、……尻尾。 そして何より……人間では頭部のあるべき場所に、顔がもう一つ付いている。 完全に人型をしているのだ、この黒い機械の巨人は……。 スバルの懐のペンダントが、これまで以上の輝きで脈動する。 その光はアンダーウェアを透過し、地下空洞を淡く照らす。 「スバル……アンタ、何か光ってるよ……?」 ティアナの指摘にスバルは胸元に手を突っ込み、懐のペンダントを引っ張り出した。 鎖の先に繋がった小さな金色のドリル……その鼓動が、輝きが、更に激しさを増していく。 その時、目の前の巨大ガンメンが突如動いた。 二人の前に跪き、腹の辺りにある「口」が、頭頂部付近のハッチが、音を立てて開く……! まるで、主を受け入れるかのように。 「まさか、アタシ達に乗れって言ってるの……!?」 驚愕の声を上げるティアナに、巨人は何も答えない。 ペンダントを握り締め、無言で巨大ガンメンを見上げていたスバルが、その時、静かに口を開いた。 「ティア……乗ろう」 「スバル!?」 瞠目するティアナの答えを待たず、スバルは巨人へと歩み寄る。 「きっと上では、あの試験官の人がムガンと戦ってる。あたしが行っても、きっと足手まといにしかならない……ティアの言うことは正しいよ。 だけどあたしとティアと、そしてこの子が力を合わせれば、きっとあの人の助けになれる。きっとあたし達は、何かが出来る……! そう思うんだ……根拠は無いけど」 淡々と語るスバルの背中が、何となく普段よりも大きく、頼もしくティアナには見えた。 そして……ティアナも覚悟を決めた。 「……上等よ、やってやろうじゃない。アタシ達をパイロットに選んだ幸福を噛み締めながら、馬車馬のように働きなさい」 強がるような笑みを浮かべ、ティアナはそう語りかけながら巨人に近づく。 そしてスバルが頭部の、ティアナが腹部のコクピットに乗り込む。 頭部コクピットの正面、シンプルなコンソール下に、小さな円錐状の窪みをスバルは見つけた。 ちょうどスバルの握るペンダントと同じ位の大きさである。 一瞬の躊躇もすることなく、スバルは窪みにペンダント――コアドリルを差し込んだ。 その瞬間、黒いガンメン――ラゼンガンの二対四つの眼に、光が灯った。 「ラゼンとラガン……この子、二つのガンメンが合体して出来てるんだ」 ラゼンガン頭部――ラガンのコクピットで、スバルはウィンドウに表示した機体データを見ながら呟く。 左右の操縦桿に触れた瞬間、この機体のあらゆる情報が直接頭の中に流れ込んできた。 機体と感覚を共有したと言い換えても良い。 ともかく、今の自分ならばラガンを――ラゼンガンを手足のように自在に動かせる。 スバルはそう確信していた。 それはラゼンの操縦席に座るティアナもきっと同じだろう。 「二人合わせてラゼンガン、格好良いじゃん!」 見た目は思いっきり悪役だけどねーと笑うスバルの前に、ティアナからの通信ウィンドウが開く。 『呑気なこと言ってないで、さっさと地上に出るわよ』 ティアナの言葉にスバルは首肯を返し、左右の操縦桿を握り締めた。 スバルの思考をトレースして、ラゼンガンは大きく身を屈める。 「てりゃああああぁっ!!」 スバルの気合いと共にラゼンガンが跳んだ。 天井を突き破り、一気に地上へと躍り出る。 「あれは……ラゼンガン!?」 突如地下から現れたラゼンガンの姿に、フェイトは驚愕の声を上げる。 いったい誰が乗っているのか……それ以前に何故、ラゼンガンがここに存在しているのか? 螺旋エンジンの構造解析のため、ラガンは半年前に分解された筈である。 首から下の部分に至っては、回収すらされずに廃棄処分されたと聞いている。 しかし今、ラゼンガンは完全な形でフェイトの前に確かに存在していた。 困惑するフェイトの胸中を知ってか知らずか、ラゼンガンは妙に人間臭い動きで、フェイト――正確にはその向こうのムガンへと走り寄る。 『どいてどいてどいてぇぇぇーーっ!』 『道開けて下さい危ないですからぁぁぁーーっ!』 ラゼンガンが上下二つの口を開き、若い少女達の声でフェイトに呼びかける。 その勧告につい道を開けたフェイトの傍を、漆黒の巨人は颯爽と駆け抜けていく。 唖然とラゼンガンを見送るフェイトに、その時、一つの通信が入った。 虚構の街を疾走するラゼンガンは、手近なムガンへと拳を振り上げ、 『よくも散々追いかけ回してくれたなパァーンチ!!』 ――殴った。 『円盤の分際で調子に乗るなキィーック!!』 ――蹴った。 「ティア! 一気に決めるよ!!」 ウィンドウに映る相棒の顔を横目に見遣り、スバルは操縦桿を握る両手に力を込めた。 コンソール中央の渦巻状のゲージが勢い良く回り、まるで咆哮を上げるように機体の全身が駆動音を轟かせる。 ラゼンガンの右掌から突き出したドリルが、手首と融合しながら肥大化し、腕と一体化しながら巨大化し、まだまだ成長を続けていく。 ラゼンガンの全長よりも更に巨大なドリルが、まわる、回る、廻る……!! 「ギガドリル――」 スバルの咆哮と共にラゼンガンは走り出し、殴りつけるようにドリルを突き出した。 唸るドリルがまず一体目のムガンを貫き、続いて二体目と突き破り、そして三体目、四体目……まるで止まることを知らぬように、敵を食い尽くしていく。 「――ブレイク!!」 敵陣を貫通し、名乗りを上げるラゼンガンの背中を、無数の爆炎が赤く染め上げた。 「乙女心が天地を穿ち、魅せてあげるわ底力! 覚悟合体ラゼンガン、あたし達を誰だと思ってる!!」 格好つけるように右腕のドリルを一振りし、即興で作った口上と共に決め台詞を口にするスバル。 ……まだまだ敵は沢山残っているということを、スバルはすっかり失念していた。 隙だらけのラゼンガンの背中に、ムガン達が一斉にビームを叩き込む。 敵の集中砲火にラゼンガンはあっさりと吹き飛ばされ、スバルはコンソールに頭をぶつけ、ティアナはシートから転げ落ちた。 「ぁ痛たたた……もう! シートベルトくらい付けときなさいよ、このポンコツ!!」 したたかに打ち付けた頭を擦りながらティアナが憤慨する。 『うぅ~、鼻打った……』 スピーカー越しに聞こえてくるスバルの情けない声に、ティアナの中で何かが切れた。 「こんっの、馬鹿スバル! 馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、遂に二度ネタなんて馬鹿な真似にまで手を出して……アンタはどれだけ馬鹿なのよ!?」 『ご、五連発!?』 どうでも良い部分に瞠目するスバルを眼光一つで黙らせ、ティアナはシートに座り直した。 左右の操縦桿――ラガンのものとは形が違う――を握り、機体の制御をスバルから奪い取る。 「あのメカクラゲ……もう許さないんだから!!」 クラゲは違うでしょーとツッコミを入れるスバルを無視して、ティアナは己の十八番――幻術魔法の術式構築を始めた。 ラゼンガンの隣にもう一体の『ラゼンガン』――幻術魔法によって創られた虚像――が出現し、二体のラゼンガンの左右に更に新たな『ラゼンガン』が生まれる。 四体から八体、八体から十六体……延々と分裂を繰り返す無数の『ラゼンガン』が、ムガンの軍勢を取り囲む。 操縦桿を握るティアナの両手が、じっとりと汗に濡れている。 数十体もの分身の生成――そんな荒業、今まで考えたことすらなかった。 無理だ……頭の中で、理性とも言うべきもう一人が冷静にそう断じる。 お前のような凡人にそんなことが出来る筈が無い、馬鹿なことを考えずにさっさと諦めろ……。 いや、出来る……もう一人の自分からの警告を、ティアナは頭を振って否定した。 確かに自分に才能は無い、無理と言われても仕方が無いだろう――いつもの自分、今までの自分ならば。 しかし、今は違う……ティアナは心の中の自分に叫ぶ。 今の自分は独りではない――ラゼンガンが手伝ってくれる。 無理を通して道理を蹴飛ばす、今の自分達ならばそれが出来る。 自分とスバル、そしてこのラゼンガンが揃った、今ならば……! 「必殺、101匹ラゼンガン全員集合包囲網」 スバルとは違う――静かだが凄みのあるティアナの名乗りと共に、101体にまで増殖した『ラゼンガン』が一斉にドリルを構え、ムガンの軍勢に突撃する。 ムガン達は一箇所に密集し、全方位から接近する無数の『敵』に、手当たり次第にビームを放つ。 まるでウニの棘のように四方八方に伸びる光の軌跡は、しかし虚像の身体を空しく透過していく。 本体は……どこにもいない。 「――と、見せかけて」 突如ムガンの目の前の空間が歪み、102体目のラゼンガン――幻術魔法で姿を消していた本体――が姿を現す。 その右腕で回るドリルが、飢えた獣のように唸りを上げている。 ムガン達は咄嗟に散開した……しかし敵の攻撃を回避するには、ラゼンガンは余りにも間近に接近し過ぎていた。 「真実はいつも一つなのよアターック!!」 ティアナの怒号と共に、ラゼンガンのドリルがムガンの一体を貫いた。 周囲に固まった味方を巻き込んだムガンの爆発が、半壊した虚構の街を地面ごと大きく抉り取る……この一撃で、残存していた敵の半分近くが消滅した。 『ティア凄い!』 ウィンドウの向こうでスバルが目を輝かせ、ティアナの手腕に喝采を上げる。 『――技のネーミングはイマイチだけどっ!!』 「アンタにだけは言われたくないわよ!!」 スバルの余計な一言に猛然と切り返し、ティアナは上空に逃げた敵の生き残りに視線を向けた。 敵の残存勢力は数十体――恐らく五十は残っていないだろう。 襲撃された当初と比べると、随分と減ったものである。 あの程度の数、スバルなら一撃で粉砕出来る……何の根拠もなかったが、ティアナは自然と確信していた。 「スバル、やっちゃいなさい」 『うん!』 絶対の信頼と共に締めを委ねるティアナに、スバルは力強く頷き、 『――それで、どうやって?』 ……そう言って困ったような顔で小首を傾げた。 ……スバルの言葉に、ティアナの思考はフリーズした。 「……いやいやいや! スバル、アンタ馬鹿ぁ? 空飛ぶなりジャンプするなりしてあいつらの真ん中に突っ込んで、ドリルで一発粉砕すれば万事解決でしょ!?」 再起動したティアナが焦ったようにそう畳み掛けるが、スバルは困ったような顔のまま、申し訳なさそうにティアナから目を逸らす。 『うーん……流石のあたしもあの高さまでジャンプするのはちょっと無理かなー? それに空を飛ぶって言ってもラゼンに飛行機能は無いし、ラガンのブースターもそんなにパワー無いし……』 スバルの返答に、今度こそティアナの思考は凍りついた。 「じゃあ……手詰まりってこと……?」 『認めたくないところではあるけど……』 硬直したラゼンガンの頭上から、ビームの雨が容赦なく降り注いだ。 「うーん、何か予想外に凄いことになってるなぁ……」 空からネチネチと攻撃するムガンのビームから必死に逃げ回るラゼンガン……。 余りにも情けないその姿を、彼女はラガンゼンの頭上――ムガン達よりも更に高い位置から見下ろしていた。 このままでは、いつまで経っても埒が明かない……ジリ貧とも言える眼下の戦況に、彼女は苦笑いを浮かべる。 「助けてあげよっか?」 そう言って地上に降下しようとする主人に、デバイスは不意に、制止の声を上げた。 ≪Wait a minute. My master≫ 「え……?」 不思議そうな顔をする彼女の遥か下で、ラゼンガンが新たな動きを見せようとしていた。 「あぁーもう、あのクラゲ共! こっちの攻撃が届かないからって、調子に乗ってバンバン撃ってんじゃないわよ!!」 『だからアレ多分クラゲじゃないって……』 再度入れられるスバルのツッコミを黙殺し、ティアナは上空のムガンを忌々しそうに睨み上げた。 自分達の攻撃はあの高さまでは届かない――スバルの挙げた絶望的な指摘は、その後の様々な試行の結果、覆し難い事実として立証されてしまっている。 ビルを足場に跳んでみた――より高い位置に逃げられた。 誘導弾らしき飛び道具を使ってみた――敵に届く前に撃ち落された。 最終手段として右腕のギガドリルを分離し、素手で思い切り投げつけもした――重すぎたのかムガンまでは届かず、逆に落下するドリルに自分達が潰されそうになった。 あの空飛ぶメカクラゲ共に一矢報いるためには、奴らの逃げられぬ程の高速の動きで接敵し、そして反撃を許さぬ圧倒的な攻撃力で叩き潰すしかない。 速さと強さ――その二つを両立させる「切り札」を、しかし今の自分達は持っていない。 万策尽きた……ティアナは己の無力さに歯噛みした。 『ティア~、何とかしてよぉー』 情けない声で自分を頼るスバルに、追い詰められたティアナの思考が爆発した。 「うるさぁーい! 馬鹿スバル、馬鹿は馬鹿なりにアンタも何か考えなさいよ!!」 癇癪を起こした子供のように喚き散らすティアナの脳裏に、不意にこれまでのスバルの科白が蘇った。 ――ラゼンとラガン……この子、二つのガンメンが合体して出来てるんだ……。 ――空を飛ぶって言ってもラゼンに飛行機能は無いし、ラガンのブースターもそんなにパワー無いし……。 バラバラに散らばっていたパズルのピースが、頭の中で重なり合い……、 ――ティア……征こうか。 ティアナの中に、一つの「答え」が生まれた。 「スバル……」 モニターの向こうの親友に、ティアナは静かな声で語りかける。 「――何とかする方法、思いついたよ」 ティアナの言葉に、スバルは顔を輝かせた。 『本当!? どんなどんな!?』 期待に満ちた目で続きを催促する親友に少しだけ後ろ髪を引かれながら、ティアナ――ラゼンは頭上のラガンを右手で鷲掴みにし、そして一気に引き抜いた。 『え!? ちょ、ちょっと……ティア!?』 突然の合体解除に戸惑うスバル――ラガンを大きく振りかぶり、 「スバル……逝ってこぉおおおおおおおおおいっ!!」 気合い一発、全力投球――右手に握るラガンを、上空のムガンへと思いきり投げつけた。 「ちょっとティア!? それ字が違ぁあああああああああうっ!!」 非道とも言えるティアナの「何とかする方法」に、スバルは思わず悲鳴を上げる。 しかし親友が託した自分の役割を反射的に理解し、スバル――ラガンは両脚のブースターを点火した。 ラガンの両腕がドリルに変形し、額からも小さなドリルが飛び出す。 ラゼンの腕力にブースターの推進力も加わったラガンのスピードは音速の壁をも突き破り、回避不能の魔弾としてムガンの群れに迫る。 「ラガンインパクト!!」 全身に圧し掛かる苛烈なGに苦痛の表情を浮かべながら、それでもスバルは名乗りを忘れない。 ラガンは更に加速しながら敵陣を突っ込み、その真ん中に巨大な風穴を掘り抜いた。 「あ、あたしを……誰だと思ってる!!」 肩で息をしながら決め台詞を叫ぶスバルの背後で、ムガン達が真昼の花火と化した。 これで敵勢力はほぼ壊滅したが、しかし全てのムガンが破壊された訳ではなかった。 誘爆を免れた一部の生き残りが、未だ僅かであるが存在している。 「もう一度……!」 疲労の色濃く浮いた顔を引き締め、スバルは再びブースターを噴かそうとした。 しかしスバルがペダルを踏み込むよりも、ムガンの動きの方が一瞬早かった。 放たれるビーム、ラガンに――そしてラゼンにも迫り来る死の光。 やられる……スバルは反射的に目を閉じた。 一秒が経過した――予想されるような衝撃は来ない。 二秒が過ぎた――平穏そのものである。 三秒目――まだ来ない。 不審に思い、恐る恐る目を開けたスバルの視界一面に、桃色に輝く光の壁が飛び込んできた。 「防御結界……?」 呆然と呟いたスバルは、その時になって漸く、目の前の虚空に立つ一つの背中の存在に気付いた。 ツインテールに纏められた亜麻色の長い髪、純白のバリアジャケット、そして右手に握る魔導師の杖……どれもスバルは見覚えがあった。 「なのは……さん?」 その呟きに答えるように、なのははスバルを振り返り、そして優しく微笑んだ。 「アクセルシューター」 なのはの周囲に光の弾丸が形成され、ムガンを撃ち抜く。 その攻撃に他の生き残りのムガンが一斉に動き出すが、直後、地上から放たれた金色の雷撃によって全滅した。 慌てて地上を見下ろしたスバルは、右手に戦斧型のデバイスを握り、ラゼンを庇うように立つ試験官の魔導師を見つけた。 「よく頑張ったね、二人とも」 そう言って笑いかけるなのはに、スバルは安心したように肩の力を抜いた。 「……まだまだだな」 一部始終を見終わり、ロージェノムはそう口にした。 「あの程度の螺旋力ではシモンはおろか、この私にも遠く及ばない」 淡々と語るロージェノムの言葉には、落胆したような響きも混ざっている……シャリオは何となくそう思った。 「……じゃあ、何で彼女達の好きなようにさせたんですか?」 助けに出ようとするフェイト達を、ギリギリまで引き止めてまで……。 落胆したということは、その分あの二人に何かを期待しているのではないか……? 今し方口にした「まだまだ」という言葉――失望はしてもまだ見放してはいない、まだ何かを期待している……そういうことではないだろうか。 そう問いかけるシャリオに答えることなく、ロージェノム踵を返した。 「じきに客が来る、それまでに少しは身の回りを片付けておけ」 そう言って立ち去るロージェノムを見送り、シャリオは重い息を吐いた。 答えを期待していた訳ではないが、しかしたまには何か答えてくれても良いのではないか。 嫌われてるのかなーと弱音を吐きながら、シャリオは点け放しのままのモニターを再び見上げた。 モニターの中では、スバル達二人がフェイト達と何かを話している。 恐らく、ロージェノムの言う「客」とは彼女達のことなのだろう。 螺旋力に関しては、次元世界の中ではこの螺旋研究所が真実に一番近い場所にある、ロージェノムが一番真理に近い位置にいる。 あのラゼンガンにしても、どうやらあの上司の私物らしい。 どうしてあんな場所に埋まっていたのかは考えたくもないが、その辺りは後でフェイト達が追求してくれるだろう……精々こってりと絞られるが良い。 思考が黒い方向に陥りかけたその時、シャリオは不意にあることに思い至った。 スバル達をここに迎え入れるということは、やはりあの二人に期待しているということではないか。 気に入らないのならばフェイト達に早々に敵を殲滅させ、二人を機体から引きずり出せば済む筈である。 しかしあの男は最後まで彼女達のやりたいようにやらせ、そしてその全てを見届けた。 それがロージェノムの真意なのではないか。 それがロージェノムの自分への答えなのではないか。 「何だ……ちゃんと答えてくれてたんじゃない」 相変わらず解り難い上司だが、少しだけ解ってきたことがあるような気がする。 上司との良好な人間関係の構築に一歩進んだ……そんな手応えを感じながら、シャリオは来客の準備に取り掛かった。 天元突破リリカルなのはSpiral 第4話「二人合わせてラゼンガン」(了) 戻る目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/53.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS 第25話【ファイナル・リミット】 なのは「出会いは偶然。初めは何も分らなかった。ただ、目の前で泣かれると私も何だか悲しくて。 行かないでって抱きつかれると、胸が切なくて。笑ってくれると嬉しくて。 上手く言葉にできないけど、きっと大切な子。守れなかった約束を、今度はきっと守るから。 だから待ってて。ママが絶対、助けるから!」 ヴィータ「なのはもう、玉座の間についてる頃だよな。はやても、外で戦いながら船が止まるのを待ってる」 「こいつをぶっ壊して、この船を止めるんだ!リミットブレイク、やれるよな?」 「上等だよ。うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」 シャーリー「時限航行部隊の到着まで、後45分。巨大船の気道ポイント到達まで、後38分」 はやて「七分差」 シャーリー「主砲の照準はミッド首都に向けられています。七分あれば」 はやて「撃てるやろうね。防衛ライン現状維持!誰か指揮交代!今から私も突入する」 シャーリー「え!?」 はやて「軌道上になんて、上らせへん。地上に攻撃もさせへん!」 グリフィス「八神部隊長!」 アルト「割り込み失礼します!こちら、ロングアーチ03!」 はやて「アルト!?」 アルト「八神部隊長!後もうちょっとだけ待ってください!大事なお届けものを、今そちらに!」 なのは「ヴィヴィオ」 ヴィヴィオ「勝手に、呼ばないで!」 ヴィヴィオ「こんなの、効かない!」 クアットロ「あはははは、やっぱり~。陛下~、その悪魔が使ってるパワーアップ、どんどん使わせちゃって下さい~。 ブラスターとやらの正体は、術者が耐えうる限界を遙かに超えた自己ブースト。撃てば撃つほど、 守れば守るほど、術者もデバイスも命を削っていきます。うっふふ。優秀な前衛がいて、 後先考えない一撃必殺を撃てる状況なら、そりゃまぁおっかないスキルなんでしょうけど。 こんな状況では、役に立ちませんよね」 エリオ「キャロ、ルーを連れて上に」 キャロ「うん」 エリオ「地雷王たちは、僕たちが止める!!」 シグナム「同行を願います」 ゼスト「断る。ルーテシアを救いに戻り、スカリエッティを止めねばならん」 シグナム「スカリエッティと戦闘機人たちは既に逮捕。ルーテシア・アルピーノも、私の部下たちが保護するべく動いています」 ゼスト「そうか。ならば俺の成すべきことは、後一つだけか」 アギト「旦那!!何故!!」 ゼスト「じっとしていろ!!」 ゼスト「夢を描いて未来を見つめたはずが、いつの間にか、随分と道を違えてしまった。 本当に守りたいものを守る、ただそれだけのことの、なんと難しいことか」 ヴィータ「なんでだよ。なんで、とおらねぇ!こいつをぶっ壊さなきゃ、皆が困るんだ。 はやてのことも、なのはのことも!守れねぇんだ!こいつをぶちぬけなきゃ!意味ねぇんだ!!」 ヴィータ「駄目だ。守れなかった。はやて、みんな、ごめん!」 はやて「謝ることなんて、なんもあらへん」 ヴィータ「はやて、リイン」 リイン「はいです」 はやて「鉄槌の騎士ヴィータとグラーフアイゼンが、こんなになるまで頑張って。 それでも壊せへんもんなんて、この世のどこにも、あるわけないやんかっ」 シャッハ「通路封鎖?ロッサ!」 ヴェロッサ「こりゃ、自爆装置でも作動してそうな勢いだね」 フェイト「これは、一体っ」 スカリエッティ「ふふふ、クアットロが、この拠点の破棄を決意したようだ」 フェイト「止めさせて。このままじゃ、あなたも一緒に」 スカリエッティ「言ったろ。彼女の体内には、私のコピーがいる。こちらの私は用済みなのさ」 クアットロ「防御機構フル稼働。予備エンジン駆動。自動修復開始。ふふ、まだまだ。これは」 レイハー『ワールドエリアサーチ、成功。座標特定、距離算出』 なのは「見つけた」 クアットロ「エリアサーチ!!まさか、ずっと私を探してた?だ、だけどここは最深部。ここまで来られる人間なんて」 クアットロ「壁ぬき!?まさか、そんな馬鹿げたことが!?」 レイジングハート『通路の安全確認、ファイアリングロック解除します』 なのは「ブラスター3!!」 なのは「ディバイーーーン、バスターーー!!」 クアットロ「いや、いやああああ!!あ、あぁ、ドクターの夢が、わたしたちの、世界、が」 ラッド「ガジェット、完全停止。他の地点も同様です」 ゲンヤ「六課の連中がうまいことやったか!」 なのは「ヴィヴィオ?ヴィヴィオ!」 ヴィヴィオ「なのは、ママ。駄目!逃げてぇ!!」 ヴィヴィオ「駄目なの。ヴィヴィオ、もう、帰れないの」 なのは「っ!」 ゆりかご『駆動路破損、管制者不在。聖王陛下、戦意喪失。これより、自動防衛モードに入ります。 艦載機、全機出動。艦内の異物を、すべて排除してください』 はやて「いくよ、リイン!」 リィン「撃ち抜いて、進みます!」 なのは「ヴィヴィオ、今助けるから!」 ヴィヴィオ「駄目なの!止められない!」 なのは「駄目じゃない!!!」 ヴィヴォオ「もう、来ないで」 なのは「うっ」 ヴィヴィオ「分かったの、私。もうずっと昔の人のコピーで、なのはマ、なのはさんも、フェイトさんも、本当のママじゃ、 ないんだよね?この船を飛ばすための、ただの鍵で、玉座を守る、生きてる兵器」 なのは「違うよ」 ヴィヴィオ「本当のママなんて、元からいないの。守ってくれて、魔法のデータ収集をさせてくれる人を、探してただけ」 なのは「違うよ!」 ヴィヴィオ「違わないよ!しいのも、痛いのも、全部偽物の、作りもの。私は、この世界にいちゃいけない子なんだよ!」 なのは「違うよ。生まれ方は違っても、今のヴィヴィオは、そのやって泣いてるヴィヴィオは、偽物でも作りものでもない。 甘えん坊ですぐ泣くのも、転んでも一人じゃ起きられないのも、ピーマン、嫌いなのも。私が寂しい時に、 いい子ってしてくれるのも、私の大事なヴィヴィオだよ」 なのは「私が、ヴィヴィオの本当のママじゃないけど、これから、本当のママになっていけるように努力する。 だから!いちゃいけない子だなんて、言わないで!本当の気持ち、ママに教えて」 ヴィヴィオ「私は、私は!なのはママのことは、大好き。ママとずっと、一緒にいたい。ママ?助けて!」 なのは「助けるよ。いつだって、どんなときだって!!」 なのは「ヴィヴィオ、ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」 ヴィヴィオ「うん」 なのは「防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウン。いけるね、レイジングハート!」 レイジングハート『いけます』 なのは「全力、全開!!スターライトーー!ブレイカーーー!!!」 なのは「うっ、う、ヴィヴィオ?ヴィヴィオ!」 ヴィヴィオ「来ないで」「一人で、立てるよ。うっ、ぐ。強くなるって、約束したから」 ルキノ「巨大船、船速低下!上昇速度、激減!これなら、艦隊の到着のほうが速いです!七分差が埋まります!」 ゆりかご『聖王陛下、反応ロスト。システムダウン』 はやて「なのはちゃん!」 なのは「はやてちゃん」 ゆりかご『艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします。艦内の乗員は、休眠モードに入って下さい』 ゼスト「俺の知る限りの事件の真相は、この中に納めてある」 シグナム「お預かりします」 ゼスト「アギトとルーテシアのこと、頼めるか?巡り合うべき相手に、巡り合えずにいた、不幸な子供だ」 アギト「旦那!!」 ゼスト「アギト、おまえやルーテシアと過ごした日々。存外、悪くなかった。いい空だな」 シグナム「はい」 ゼスト「俺やレジアスが守りたかった世界。おまえたちは、間違えずに進んでくれ」 アギト「旦那~!!」 そして、ティアナとスバルが合流。ギンガ無事のようで何よりです。 お、シャマルだ。犬は? ヴァイス「船の上昇は止められたみてぇだが、あの中じゃまだ、戦いが続いてんだ」 シャマル「突入したなのはちゃんたちと連絡がつかなくなってるの」 スバティア「え!?」 ヴァイス「インドアでの脱出支援と救助任務、陸戦やの仕事場だぜ!」 スバティア「はい!」 次回予告 なのは「事件が終わりを告げる時」 スバル「そして、機動六課がその役目を終える時」 なのは「離れ離れになっても、消えないもの、忘れないもの」 スバル「次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS最終話」 なのは「約束の空へ」 なのは・スバル「Take off!」
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/29.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS 第3話 【集結】 はやて「目指した夢は、少し長い時を経て…今、やっと手のひらの中」 フェイト「思いと願いは違っても、一つの場所に集まって…一つのことを、今始める」 なのは「出会いと再会も、始まりはここから」 はやて「それぞれに進んでいく道の、ここは小さな通過点」 フェイト「集まり結ぶ、新しい絆」 なのは「魔法少女リリカルなのはStrikerS……始まります」 はやて「リィンのディスクも、ちょうどええのが見つかってよかったなぁ」 なのは「本日ただいまより高町なのは一等空尉」 フェイト「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」 なのは「両名とも、機動六課へ出向となります」 フェイト「どうぞ、よろしくお願いします」 はやて「はい、よろしくお願いしますぅ」 はやて「機動六課課長。そして、この本部隊社の本部隊長、八神はやてです。 平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を守っていくことが、 私たちの使命であり成すべきことです。実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。 それぞれ優れた専門技術の持ち主の、メカニックやバックヤードスタッフ。 全員が一丸となって、事件に立ち向かっていけると信じています。まぁ、長い挨拶は嫌われるんで、 以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした!」 フェイト「シグナム。ほんと、久しぶりです」 シグナム「ああ…テスタロッサ。直接会うのは半年振りか」 ファイト「はい。同じ部隊になるのは初めてですね。どうぞよろしくお願いします」 シグナム「こちらのセリフだ。だいたいおまえは私の直属の上司だぞ」 フェイト「それがまた…なんとも落ち着かないんですが…」 シグナム「上司と部下だからな。テスタロッサにおまえ呼ばわりもよくないか。敬語でしゃべったほうがいいか?」 フェイト「あぅ…そういういじわるはやめてください。いいですよ、テスタロッサで…おまえで」 シグナム「ふっ…。そうさせてもらおう」 なのは「今返したデバイスには、データ記録用のチップが入ってるから。ちょっとだけ、大切に扱ってね」 シャーリー「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸戦用空間シミレーター」 シグナム「ヴィータ。……ここにいたか」 ヴィータ「…シグナム」 シグナム「新人たちはさっそくやっているようだな」 ヴィータ「ああ」 シグナム「おまえは参加しないのか?」 ヴィータ「四人ともまだよちよち歩きのヒヨッコだ。私が教導を手伝うのはもうちょっと先だな」 シグナム「そうか」 ヴィータ「それに自分の訓練もしたいしさ。同じ分隊だからな。私は空でなのはを守ってやらなきゃいけねぇ」 シグナム「…頼むぞ」 ヴィータ「ああ。そういえばシャマルは?」 シグナム「自分の城だ」 なのは「私たちの仕事は捜索指定ロストロギアの保守管理。その目的のために私たちが戦うことになる相手は…これ!」 シャーリー「自律行動型の魔法機械。これは、近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃は結構鋭いよ」 なのは「では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的。逃走するターゲット八体を破壊。または捕獲。15分以内」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「はい!!」 シャーリー「それでは」 なのは「ミッション」 なのは・シャーリー「スタート!!」 リインフォースⅡ「ヴァイス陸曹,ヴァイス陸曹は皆の命を乗せる乗り物のパイロットなんですから、 ちゃーんとしてないと駄目ですよ!」 はやて「捜索指定遺失物。ロストロギアについては、皆さんよくご存知のことと思います」 「様々な世界で生じたオーバーテクノロジーのうち、 消滅した世界や古代文明を歴史に持つ世界において発見される、危険度の高い古代遺産。 特に大規模な災害や事件を巻き起こす可能性のあるロストロギアは正しい管理を行わなければなりませんが、 盗掘や密輸による、流通ルートが存在するのも確かです。 さて、我々機動六課が設立されたのには一つの理由があります。 第一種捜索指定ロストロギア、通称『レリック』」 フェイト「このレリック。外観はただの宝石ですが、古代文明時代に何らかの目的で作成された 超高エネルギー結晶体であることが判明しています。レリックは、過去に4度発見され、 そのうち三度は周辺を巻き込む大規模な災害を起こしています」 管理局幹部「おぉ……」 フェイト「そして、後者二件ではこのような拠点が発見されています」 「極めて高度な、魔力エネルギー研究施設です。発見されたのはいずれも未開の世界。 こういった施設の建造は許可されていない地区で、災害発生直後にまるで足跡を消すように破棄されています。 悪意ある…少なくとも法や人々の平穏を守る気のない何者かがレリックを収拾し、運用しようとしている、 広域時限犯罪の可能性が高いのです。そして、その何者かが使用していると思われる魔道機械がこちら。 通称『ガジェット・ドローン』」 「レリックを始め、特定のロストロギアの反応を捜索しそれを回収しようとする自律行動型の自動機械です」 ティアナ「バリア!?」 キャロ「違います。フィールド系?」 スバル「魔力が消された!?」 なのは「そう。ガジェット・ドローンにはちょっとやっかな性質があるの。 攻撃魔力をかき消すアンチマギリングフィールドAMF。普通の射撃は通じないし…… ティアナ「スバル、バカ危ない!」 なのは「それに、AMFを全開にされると…飛翔や足場作り。移動系魔法の発動も困難になる。スバル。大丈夫?」 スバル「っつ~。…な、なんとか…」 シャーリー「まぁ、訓練場では皆のデバイスにちょっと細工をして擬似的に再現してるだけなんだけどね。 でも、現物からデータをとってるし、かなり本物に近いよ~」 なのは「対抗する方法はいくつかあるよ。どうすればいいか、すばやく考えてすばやく動いて!」 シャーリー「へぇ~。皆よく走りますね~」 なのは「危なかっしくてドキドキだけどね」「デバイスのデータ、取れそう?」 シャーリー「いいのがとれてます。四機ともいい子に育てますよ~」 キャロ「我が求めるは、戒める物、捕らえる物。「言の葉に応えよ、鋼鉄の縛鎖、錬鉄召喚、アルケミックチェーン」 シャーリー「ほへぇ~!召喚ってあんなこともできるんですね~」 なのは「無機物操作と組み合わせてるね。なかなか器用だ」 シャーリー「魔力弾?AMFがあるのに?」 レイハー「Yes, there is an available passing method.(いいえ、通用する方法があります)」 なのは「うん」 ティアナ「攻撃用の弾体を無効化フィールドで消される膜状バリアでくるむ。 フィールドを突き抜けるまでは入るだけ外郭が持てば、本命の弾は…ターゲットに、届く!」 なのは「フィールド系防御を突き抜ける多重弾核射撃。AAランク魔道師のスキルなんだけどね」 シャーリー「AA!?」 ティア「固まれ…固まれ…。固まれ…固まれ!!」 シグナム「中央のほうはどうでしたか?」 はやて「まぁ、新設部隊とはいえ後ろ盾はそうとうしっかりしてるからな。そんなに問題はないよ」 シャマル「後継人だけでもリンディ提督にレティ提督にクロノ君。んじゃない、クロノ・ハラオウン提督」 シグナム「そして最大の後ろ盾、聖王教会と教会騎士団の騎士カリム。ま、文句の出ようはありませんね」 はやて「現場のほうはどないや?」 ヴィータ「ん?…なのはとフォワード隊は挨拶後朝から夜までずっとハードトレーニング」 ヴィータ「新人たちは今頃グロッキーだな」 ヴィータ「ま、全員やる気と負けん気はあるみたいだし、なんとかついてくと思うよ」 はやて「うん」 シャマル「バックヤード陣は問題ないですよ。和気あいあいです」 シグナム「グリフィスも相変わらずしっかりやってくれてます。問題ありませんね」 はやて「…そうか。私たちが局入りして、かれこれ10年。やるせない、 もどかしい思いを繰り返して、やっとたどり着いた私たちの夢の舞台や。 レリック事件をしっかり解決して、カリムの依頼もきっちりこなして、皆で一緒に頑張ろうな」 ヴィータ「うん!頑張る!」 シャマル「もちろんです」 シグナム「我ら守護騎士。あなたと共に」 フェイト「新人たち…手ごたえはどう?」 なのは「うん。皆元気でいい感じ」 フェイト「そう。……立派に育っていってくれるといいんだけどね」 なのは「育てるよ。……あの子達がちゃんと、自分の道を戦っていけるように…ね」 次回予告 フェイト「出動に備えて、訓練の日々を続けるフォワードメンバー」 なのは「出会うのは、共に戦うパートナー。それぞれのための専用デバイス」 フェイト「次回魔法少女リリカルなのはStrikerS第四話」 なのは「ファースト・アラート」 なのは・フェイト「Take off!」
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/52.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS 第23話【Stars Strike】 ティアナ「地上でも空でも、分断されたままの絶望的な状況。だけど、ずっと傍にいてくれたあの子の馬鹿みたいな 優しさと、出来の悪い私に一生懸命、技と力を叩き込んでくれたあの人の教えが、私に、立って戦えって言ってる。 誰にも負けないって言ってくれた言葉を、積み重ねてきた時間を。信じた未来を、夢のままで、終わらせないために」 ディエチ「あの小さな子の、お母さん、なんだっけ。あんたに恨みはないけど」 なのは「…っ、ブラスターシステム、リミット1!リリース!!」 レイジングハート「ブラスターセット」 なのは「ブラスター、シュート!!!」 ディエチ「うっ、抜き打ちで、この、威力」『こいつ、本当に人間か?』 なのは「じっとしてなさい。突入隊があなたを確保して、安全な場所まで護送してくれる。この船は、私たちが停止させる!」 なのは「…っ」 レイジングハート「master」 なのは「平気。ブラスター1はこのまま維持!急ぐよ、レイジングハート!」 レイジングハート「All right」 クアットロ「あはは、ははは。なんだ~。ブラスターシステム~なんて大仰な名前がついてるから、 どんなハイテクかと思ったら、バッカらしい。ねぇ陛下ぁ?あなたのママはそうとうおばかさんですよ~?」 クアットロ「いっらしゃ~い。お待ちしてました」 なのは「…っ」 クアットロ「こんなところまで無駄足ご苦労様。さて、各地のあなたのお仲間は大変なことになってますよ~」 なのは「大規模騒乱罪の現行犯であなたを逮捕します。すぐに騒乱の停止と武装の解除を」 クアットロ「仲間の危機と自分の子供のピンチにも、表情一つ変えないでお仕事ですかぁ?いいですね。 その悪魔じみた正義感」 クアットロ「で~も~、これでもまだ平静でいられます~?」 ヴィヴィオ「う、うあ、あ」 なのは「ヴィヴィオ!」 クアットロ「んっふ。いいこと教えてあげる。 あの日、ケースの中で眠ったまま輸送トラックとガジェットを破壊したのはこの子なの。 あの時あなたがようやく防いだディエチの砲、でも、たとえその直撃を受けたとしてもものともせずに生き残れた はずの能力。それが、古代ベルカ王族の固有スキル、『聖王の鎧』。レリックとの融合を経て、 この子はその力を完全に取り戻す。古代ベルカの王族が自らその身を作り変えたという究極の生体兵器。 レリックウエポンとしての力を」 ヴィヴィオ「ママーー!!!」 なのは「ヴィヴィオ!!」 ヴィヴィオ「!!ママ!!やだ~ママ!!」 なのは「ヴィヴィオ、ヴィヴィオ!!」 クアットロ「すぐに完成しますよ。私たちの王が。ゆりかごの力を得て、無限の力を振るう究極の戦士」 クアットロ「ほら陛下?いつまでも泣いてないで。陛下のママが助けて欲しいって泣いてます。 陛下のママを攫っていったこわ~い悪魔がそこにいます。 頑張ってそいつをやっつけて本当のママを助けてあげましょう?陛下の身体には、そのための力があるんですよ? 心のままに、思いのままにその力を解放して」 ヴィヴィオ「あなたは、ヴィヴィオのママを、どこかに攫った」 なのは「ヴィヴィオ、違うよ。私だよ!なのはママだよ!」 ヴィヴィオ「違う!」 なのは「!!」 ヴィヴィオ「うそつき。あなたなんか、ママじゃない!」 なのは「…っ」 ヴィヴィオ「ヴィヴィオのママを、返して!!」 なのは「ヴィヴィオ!!」 「レイジングハート!」 レイハー「W.A.S.フルドライビング」 クアットロ「さぁ、親子で仲良く、殺し合いを」 ヴィヴィオ「ママを、返してー!!」 なのは「ブラスター、リミット2!!」 ゲンヤ「市街地の防衛ラインは何とか持ちこたえてる。ガジェット共が相手なら、何とかならぁ」 グリフィス「はい!」 ゲンヤ「そっちの赤毛が鍛えてくれたうちの連中と航空隊の高町嬢ちゃんの教え子たちが最前線を張ってる。 だが、現状でギリギリだ。他に回せる余裕はねぇし、戦闘機人や召喚師に出てこられたら、 一気に崩されるかもしれねぇ」 シャーリー「戦闘機人五機と召喚師一味は、六課前線メンバーと交戦中です」 ゲンヤ「そうかい」 ティアナ『逃げ足も潰されて、カートリッジも魔力も、もう後ちょっと。頼みの綱の最後の一発勝負も、通用するかどうか』 「ほんとはさ。随分前から、気付いてたんだ。私はどんなに頑張っても、万能無敵の超一流になんてきっとなれない。 悔しくて、情けなくて、認めたくなくてね。それは今もあまり変わらないんだけど。だけど」 何だかいきなりスバルの回想シーンから始まったBパートですが、 マリエル「検査の結果、やはり間違いありません。ギンガもスバルも、二人とも、あなたと遺伝子形質が全く同じ。 あなたの遺伝子データがどこかで盗みだされて、使用されたんじゃないかと」 クイント「そう」 ギンガ「シューティングアーツの練習、スバルももっとちゃんとやればいいのに」 スバル「痛いのとか怖いの、嫌い」 スバル「自分が痛くて怖いのも嫌いだけど、誰かを痛くしたり、怖くしたりするのは、もっと嫌い。 私たちの身体、普通と違うんだし。壊したくないものまで壊しちゃうのは、怖いよ」 ギンガ「そっか。まぁ、スバルは強くなくてもいいのかな。お父さんとお母さんがいるし。私もいるから」 スバル「うん!」 なのは「そういえば、スバルが強くなりたい理由って、何なのかな?」 スバル「え?あ、やっぱりそれは、なのはさんに憧れて」 なのは「あっはは、それは嬉しいんだけど、そうじゃなくて」 スバル「え?」 なのは「強くなって、何をしたいのかなぁって」 マッハ「練習通りです」 スバル「え?マッハキャリバー?」 マッハ「まだ動けます、私も、あなたも。まだ戦えます。なのに、こんなところで終わる気ですか?」 マッハ「あなたが教えてくれた、私の生まれた理由、あなたの憧れる強さ。嘘にしないでください」 スバル「災害とか、争い事とか、そんなどうしようもない状況が起きたとき、苦しくて悲しくて助けてって泣いてる人を、 助けてあげられるようになりたいです。自分の力で、安全な場所まで、一直線に!」 なのは「あはっ」 スバル『戦うのとか、誰かを傷つけちゃうのとか、本当は何時も怖くて不安で、手が震える。 だけど、この手の力は壊すためじゃなく、守るための力。悲しい今を、打ち抜く力』 シャマル「あなたが地上戦の司令塔で、各地の結界担当。上手く隠れてたけど、クラールヴィントのセンサーからは、 逃げられない」 ザフィーラ「大規模騒乱罪、及び、先日の機動六課襲撃の容疑で!」 シャマル「逮捕します!」 ティアナ「あなたたちを、保護します。武装を、解除しなさい!」 レジアス「オーリス。おまえはもう下がれ」 オーリス「それは、あなたもです。あなたにはもう、指揮権限はありません。ここにいる意味はないはずです」 レジアス「わしは、ここにおらねばならんのだよ」 ゼスト「手荒いらいこうで済まんな、レジアス」 レジアス「かまわんよ、ゼスト」 オーリス「ゼスト、さん?」 アギト「ここから先は、通行止めだ!」 シグナム「おまえは」 アギト「旦那は、ひどいことなんかしねぇ!ただ、昔の友達と話をしたいだけなんだ! 旦那には、もう時間がねぇんだ!そいつを邪魔するってんならぁ!!」 シグナム「こちらはもとより事情を聞くのが目的だ。事件の根幹に関わることならば、尚更、聞かせてもらわねばならん」 ゼスト「オーリスは、おまえの副官か?」 レジアス「頭が切れる分、わがままでな。子供の頃から変わらぬ」 ゼスト「聞きたいことは、一つだけだ。八年前、俺と俺の部下たちを殺させたのは、おまえの指示で間違いないか? 共に語り合った、俺とおまえの正義は、今はどうなっている?」 次回予告 エリオ「消えない傷跡も、止まらない痛みも、逃げずにまっすぐに受け止めること。教えてもらったから。 だから、僕らは。次回、魔法少女リリカルなのはStrikers第24話、雷光。勇気を込めて、Take off!」
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2212.html
海沿いの街道を走る一台の車――その漆黒の車体は、今は夕焼け色に染まっている。 水平線に沈む夕陽を窓ガラス越しに眺めながら、ティアナは重い息を吐いた。 戦闘終了後、事件の重要参考人として任意同行を求められたティアナとスバルは、試験官の一人――フェイトの運転するこの車に乗って、今どこかに向かっている。 ラゼンとラガン――ティアナとスバルが偶然発見し、文字通り二人の手足となってムガン相手に戦った謎の大型ガンメンは、なのはと共に試験会場に残った。 今は時空管理局からの回収部隊の到着をまだ現場で待っているか、或いは既に引渡し手続きを完了して本部に搬送されているかのどちらかだろう。 あの二体のガンメンを本局がどう扱うか――質量兵器として解体されるか、ロストロギア扱いで封印されるか――は、末端の新人に過ぎないティアナ達には解らない。 どちらにしても、本局に没収された二体のガンメンに今後自分達が関わることは、ラゼンとラガンにもう一度会うことは不可能だろう。 結果的に乗り捨てる形で別れてしまった『相棒』達の顔は、少しだけ寂しそうに見えた気がする。 馬鹿馬鹿しい……ティアナは頭を振って己の感傷を否定した。 インテリジェントデバイスならいざ知らず、ただの機械に感情などある筈がない。 自分は些かあのポンコツ共に感情移入し過ぎている、あの悪趣味なロボに情が移ってしまっている。 そんな余裕など無いのだ……ティアナは思考を無理矢理切り替える。 質量兵器――その運用に魔力を用いない兵器の存在を、時空管理局は許容していない。 ミッドチルダでは保有するだけで重罪となる質量兵器で、しかも本来ならばそれを取り締まるべき立場の筈の自分達が、派手に大立ち回りまで演じてしまった。 穴があったら入りたい、寧ろ穴を掘って埋まりたい……暗い思考の無限螺旋に陥るティアナを、隣のスバルがじっと見つめる。 車に乗り込んでから、スバルもまた一言も口を開かず、珍しく真剣そうな顔で物思いに沈んでいた。 普段は馬鹿で能天気なこの相棒も、流石に今回は事態の深刻さに思うところがあるらしい。 言ってみなさいよ……何かを言いたそうに自分を見つめているスバルに、ティアナはそう眼で語りかけた。 「ティア、あのさ……」 ティアナのアイコンタクトに首肯を返し、スバルは神妙な面持ちで口を開く。 「――ラゼンガンの色を、赤に変えてみたらどうかと思うんだ」 その瞬間、ティアナの時は止まった。 「…………は?」 思わず間抜けな声を返すティアナにスバルは続ける。 「あたしずっと考えてたんだけど、ラゼンガンってやっぱりどう見ても見た目悪役じゃん? 顔も怖い上に色まで真っ黒で、小さな子供が見たら絶対泣くよ、アレは。 悪役ロボにも浪漫はあるけど、やっぱり乗るなら正義のヒーローっぽい方でしょ。 顔を変えるとなると装甲全部剥がさなきゃだけど、色変えるだけならペンキ塗り替えるだけでお手軽だし、赤く塗ってもあの子なら絶対似合うよ。男前だもん、ラゼンガン! それで何で赤かとゆーと、あの子って主人公よりもライバルっぽいし、だったら赤が鉄壁でしょ。理屈じゃないんだよ、これは。 赤く塗って速さ三倍、でも現実には1.3倍! その意気込みで」 真面目な顔で馬鹿なことを語るスバルに、ティアナの理性が焼き切れた。 「……こ、の、馬鹿スバル! アンタはどこまで馬鹿なのよ!! そんな馬鹿なことに頭使う前に、もっと他の大切なことに心砕きなさいよこの馬鹿!!」 「ラゼンガンを馬鹿にするなぁーっ!!」 「変なところで逆ギレするなぁーっ!!」 ぎゃあぎゃあと後部座席で揉め合う二人の新人を、はやては助手席からミラー越しに見遣り、「元気やねー」と微笑した。 小高い丘の上に、巨大な顔が乗っている……。 窓の外に見えるその風変わりな建物――螺旋研究所が、どうやらフェイト達の目的地らしい。 「ふえぇ~、でっかぁー……」 感嘆の声を上げるスバルに、ティアナも素直に同意した。 「はやてさん、……あれもガンメンなんですか?」 あんなものが動き出したら、周辺住民の混乱は一体どれ程のものになるだろう……。 畏怖と不安を多分に含んだティアナの問いにフェイトは吹き出し、はやては声を上げて笑う。 「まさか! あのデザインはただの趣味やろ」 「幾らあの人でもそこまで無茶なことはしないよ」 「え~、そんなぁー……」 笑いながらそう否定する二人の言葉に、スバルが残念そうに肩を落とす。 「「……多分」」 ぼそりと続けられた二人の呟きを、ティアナは聞かなかったことにした。 四人がそんなやり取りをしている間に車は坂道を上りきり、目的地に到着する。 フロントガラスの向こうに聳える巨大な顔、その口の部分が音を立てて開き、眼鏡をかけた赤毛の女性――シャリオが四人を出迎える。 「皆さん、螺旋研究所へようこそ。フェイトさんもはやてさんもお久しぶりです」 「シャーリー、久しぶり」 「三ヶ月ぶりやろか? 元気そうで何よりや」 友人達と挨拶を交わし、シャリオはスバル達へと顔を向けた。 「そっちの二人ははじめましてだね。私はシャリオ・フィニーノ、気軽にシャーリーって呼んでね」 そう言って人懐こい笑顔を浮かべるシャリオに、スバルとティアナも肩の力を抜く。 「あ、はじめまして。スバル・ナカジマです」 「ティアナ・ランスターです」 スバル達と交互に握手を交わすシャリオを眺めながら、ふとフェイト達はこの場に肝心な人物が欠けていることに気付いた。 「ねぇ、シャーリー。……ロージェノムさんは?」 「所長なら研究所の奥で待ってます」 研究所の責任者の姿を探すフェイトに苦笑しながらシャリオは答える。 「立場的に言えばあの人がお出迎えしなきゃなんですけど、あの髭面見て皆が回れ右しちゃったら洒落にならないから」 屈託ない笑顔で中々黒いことをのたまうシャリオに、スバルとティアナは顔を引き攣らせ、逆にフェイトとはやては納得したように目を逸らした。 夕焼け色に染まる山肌に仁王立ちするマッシヴな髭親父……嫌だ、嫌過ぎる。 「じゃあ二人も納得してくれたところで、皆中に入りましょうか?」 そう言って先導するシャリオに続いて、スバル達も研究所内部へと足を踏み入れた。 薄暗い廊下を進み、広い部屋へと抜ける……。 その最奥、巨大なモニターの前で待ち構える男の姿に、スバルとティアナは思わず固まった。 3m近い巨身、白衣の上からでも分かる筋骨隆々の肉体、濃い髭に覆われた口元は真一文字に引き結ばれ、禿頭は天井からの光を浴びて照り輝いている。 ……プロレスラーが、科学者のコスプレをしていた。 シュールを通り越してホラーの領域まで達しているその光景に本能的に回れ右をするスバル達を、オーバーS級魔導師二人のバインド魔法が拘束する。 「あ、あの……フェイトさん? はやてさん?」 「な、何か任意同行が強制連行にクラスチェンジしたよーな気がするのはあたしだけでしょーか!?」 「こらこら、どこへ行くの?」 「逃げたらアカンで? 二人とも」 狼狽えるティアナとテンパるスバルに、フェイトとはやては笑いながら釘を刺す。 その笑みは、限りなく邪悪に染まっている。 うわぁ、この人達絶対楽しんでるよ……この時になって漸く二人は、自分達がとんでもない虎穴に足を踏み込んでしまったことを知った。 「ほな、話して貰おか?」 来客用のソファに腰掛け、はやてはそう切り出した。 その漠然とした言葉に、反対側のソファに座るスバル達は顔を見合わせる。 話すとは、一体どこから、何を話せば良いのだろう……? 数秒の逡巡の後、スバル達は取り敢えず、ムガンに襲われたところから話し始めることにした。 試験中、突如ムガンの襲撃を受けたこと。 落下してくるムガンにスバルが立ち向かい、そして見事撃破したこと。 その時にスバルが見せた驚異的な「力」――ティアナはそれをスバルの秘密、戦闘機人としての力の発現と推測している――については、矛先をかわすことを忘れない。 そして地面の崩壊に巻き込まれ、落ちた地下空洞でラゼンガンに出会ったこと。 そしてそれに乗って地上に戻り、ムガンの大群をほぼ全滅まで追い込んだこと。 全てを話し終えたスバル達に、フェイト達の後ろで話を聞いていたロージェノムが口を開く。 「……それだけではないだろう」 重々しく紡がれたその一言に、ティアナ達の肩が大きく震える。 まさかスバルの秘密に感づかれたのか……? 絶望的な表情を浮かべてロージェノムを見上げるスバル達だったが、しかし目の前の巨漢の言葉は別の方向へと続いた。 「ラゼンガンは魔力炉を搭載しているが、それはあくまで補助動力だ。主動力炉――螺旋エンジンの稼動、何より中枢システムであるラガンの起動には「鍵」を必要とする。 お前達は持っている筈だ、ラゼンガンを目覚めさせる「鍵」――コアドリルを」 そう言ってロージェノムが白衣のポケットから取り出した何か――金色に輝く小さなドリルに、スバル達は息を呑んだ。 「それ、スバルのペンダントと同じ……」 呆然と呟くティアナに突き動かされるようにスバルは胸元に手を突っ込み、ペンダントを引っ張り出す。 ロージェノムの手の中を転がるコアドリルとスバルの手の中に握られるコアドリル、二つのコアドリルはまるで共鳴するように明滅を始める。 「これ……一体何なんですか?」 ティアナの口にした疑問の言葉に、ロージェノムではなくはやてが口を開いた。 「コアドリル。螺旋力――気合いをエネルギーに変える力を増幅させるロストロギアや」 「気合いをエネルギーに変える力……ですか?」 頭の上に疑問符を浮かべるスバル達に、はやては首肯と共に続ける。 「そや。このロージェノムさんの世界では魔力の代わりにその螺旋力を利用した文明が発達しとってな、この螺旋研究所ではその技術を魔法理論に応用する研究をしとるんや」 ガンメンもその研究の成果なんやでーと話すはやての言葉を、二人は感心したような表情で聞き入る。 しかし不意にあることに気付き、スバルが慌てたような顔で声を上げた。 「って、ちょっと待って下さい! このペンダントがロストロギアだってことは、コレ本部に没収されちゃうってことですか!? 嫌ですよあたし、そんなの!!」 駄々を捏ねる子供のようなスバルの突然の言動にはやて達が唖然とする中、ティアナがフォローを入れるべく口を開いた。 「このペンダントはスバルの宝物なんです。四年前の空港爆破テロの時、命の恩人から貰った大切な物だっていつも話してました」 「そうなんか?」 はやての問いにスバルは首肯し、当時の体験を話し始めた。 崩壊炎上する空港の奥に独り取り残されたこと。 熱さと苦しさと心細さに泣いている自分の前に『あの人』が現れ、そしてこのコアドリルを託してどこかへ消えたこと。 お前の拳は天を突く――『あの人』の口にしたその言葉に励まされ、上を向いて歩けというその教えに突き動かされて今まで生きてきたこと。 全てを語り終えたスバルを、ロージェノムが驚愕の表情――余りに微妙な変化だったので、シャリオ以外は気付かなかったが――で見下ろしていた。 「……シモン」 ぽつりと呟かれたその名前に、はやて達が顔を上げる。 「シモンって……所長が前に話してた穴掘りの人ですか?」 事情を知る面々を代表して問うシャリオに、ロージェノムは重々しく頷く。 「知ってるんですか!? あの人を!!」 驚愕にソファから立ち上がるスバルと、話の展開に置いていかれているティアナを交互に見遣り、はやてはやんわりとした笑みで頷いた。 「判断材料不足で断定は出来へんけどな。シモンさんっちゅーのはロージェノムさんの世界の英雄で、恋と気合いで宇宙を救った男や。 ロージェノムさんと一緒に戦っとったって話やし、その時炎とグラサンのエンブレムつけたコートも着とったって話やから、可能性としては有り得へん話やない」 はやての言葉に、スバルは放心したような顔で再びソファに身体を沈めた。 「さて、それじゃあ今度は二人の今後のことなんだけど……」 話が一段落したところで、今度はフェイトが口を開いた。 「今回ムガンの襲撃で中止になった二人の昇級試験は、近い内に再試験ってことになると思う。詳細は追って連絡するね。 ラゼンガンの無断運用については、あの状況では仕方の無い行為だったし、それにアレをあんな場所に放置したロージェノムさんが全面的に悪いから、二人に責任は無いよ」 再試験、お咎め無し。 特に後者を耳にして、ティアナは大きく胸を撫で下ろした。 「で、や。ここからが本題なんやけど……」 フェイトから話の主導権を取り戻し、はやてはそう言いながら二人に顔を近づけた。 「実はウチな、今度新しい部隊創るんよ。 なのはちゃんもフェイトちゃんも、シャーリーとロージェノムさんも、皆その部隊に入ることになっとるんやけど……二人も一緒にどうや?」 新部隊への勧誘……はやてからの突然の誘いに、スバル達は思わず顔を見合わせた。 「何で、いきなり訊くんですか? そんなこと……」 控えめに尋ねるティアナに、はやては何かを含んだような笑みでこう答える。 「元々二人のことは目を付けとったんよ。それと昼間のアンタら見てて、これは是非とも欲しいなー思うた」 逃がさへんよーと笑うはやてに、二人はまたもや顔を見合わせる。 「それで、その部隊はどんな部隊なんですか?」 良くぞ訊いてくれました……はやてはソファから勢い良く立ち上がり、拳を握りながら名乗りを上げる。 「遺失物管理部機動六課――根気と根性でロストロギアを回収して、気合いでアンチスパイラルとガチ合う超実動実戦部隊や!!」 「どっちかというと、後者の方が本音っぽいかな?」 簡略的極まりないはやての言葉に、フェイトが横から補足を入れる。 「この数ヶ月間の螺旋研究所の調査で、ムガンの出現パターンが大体分かってきたの。 レリックとコアドリルという二つのロストロギア、そしてスバルちゃんみたいな強い螺旋力を持つ人間、そのどれかのある場所に、ムガンは現れる……。 私達機動六課はムガンの出現予測地点を先読みしてこれを撃破、ロストロギアの確保やターゲットにされた人間の保護を目的としているの」 フェイトの説明を表情で聞き入るスバルが、その時口を開いた。 「……じゃあはやてさんの部隊に入れば、あの人に会えるってことですか?」 螺旋力については未だよく解らないが、コアドリルを持っていた『あの人』もきっとその持ち主なのだろう。 機動六課はそんな人間を保護するのが仕事、ならばあの人に出会える可能性は高い。 「断言は出来ないけど、可能性はあるね」 フェイトの返答に、スバルの決意は固まった。 「……やります! やらせて下さい!!」 「スバル!?」 あっさりと決断した親友にティアナが声を上げるが、スバルの瞳の奥に渦巻く決意の炎に揺らぎは無い。 駄目だ、これはもう梃子でも動かない……諦めたようにティアナは嘆息し、「アタシも」と機動六課入隊に了承の返事を返す。 「ティア?」 驚いたような顔で自分を見つめるスバルに、ティアナは苦笑しながら肩を竦める。 「アンタ一人じゃ危なっかしくて見てられないからね、アタシがフォローしなくて誰がするのよ? それにアタシにも夢がある、出来ることがあれば何でもやっとかなくちゃね」 執務官を目指すティアナにとって、現役執務官のフェイトの下という環境は大きなプラスとなる。 感謝しなさいよーと指先でスバルの頬を突くティアナに、はやては「決まりやな」と破顔する。 「それじゃー二人は今日から機動六課の前衛兼、対ムガン用魔導兵器ラゼンガンのパイロットや」 「「ラゼンガン!?」」 思いがけない名前が思いがけないタイミングで再登場したことに、二人は思わず声を上げる。 話の流れからあのロボがこの研究所の物であるということは薄々分かっていたが、まさか自分達がそのパイロットになってしまうとは思いも寄らなかった。 「ラゼンガンの起動にコアドリルは必要不可欠らしいから、スバルちゃんのそれは自分で持ってて良いよ」 「本部に行けばぎょーさんあるんや、一個や二個着服しても誰も文句は言わへんて。どーせロージェノムさんが来るまで使い方も分からん代物やったしな」 フェイトとはやての言葉に、コアドリルを握り締めていたスバルの手から力が抜けた。 「それじゃあ正式にラゼンガンを任されるおとになった二人だけど……」 ラゼンガンの所有者であるロージェノムを無視して、シャリオはスバル達に項を向ける。 「何かアレについて二人から希望とか意見とかあるかな?」 シャリオの問いに、二人は同時に口を開いた。 「シートベルトを付けて下さい!」 「ラゼンガンの色を赤にして下さい!!」 二人の答えにシャリオ達三人は爆笑し、ロージェノムは独り何かを言いたそうな顔で沈黙していた。 天元突破リリカルなのはSpiral 第5話「皆さん、螺旋研究所へようこそ」(了) その後……。 「さて、それじゃー話も終わったことやし……」 ソファから立ち上がり、はやてはその場の全員を見回しながら口を開いた。 「――皆、後片付けに戻ろか?」 そう言ってはやてが指差した先――未だ点け放しの壁面モニターには、更地と化した第七特別演習場の惨状が映し出されていた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/ktom/pages/52.html
ここでは、第1期について書いてあります。 第2期、第3期、第4期、劇場版に関しては↓を参照してください。 魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 魔法少女リリカルなのはA s 魔法少女リリカルなのはStrikerS 魔法少女リリカルなのはViVid 魔法戦記リリカルなのはForce ゴメン、準備中
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/44.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS 第14話【Mothers&Children】 なのは「一人ぼっちの切なさと、普通と違うことの寂しさ。きっと、皆知っている。 大切な人がいて、色んなものを分け合えて、支えてもらったから…私は今ここにいる。 だけど、魔法の力以外で、戦うこと以外で、私は何ができるんだろう。行き場のない小さな瞳に、 私は…どう答えればいいんだろう。魔法少女リリカルなのはStrikerS…始まります」 なのは「今日は目立ったミスもなく、いい感じでした。今後も、この調子でね」 スバル・ティアナ・エリオ・キャロ「ありがとうございました!」 スバル「セカンドモードも、だいぶ馴染んできたかなぁ~」 キャロ「そうですね~」 スバル「変化の少ない私とキャロはともかく、ティアとエリオは大変そうだよね~」 キャロ「形から変わっちゃいますし」 ティアナ「あたしは、別に。ダガーモードはあくまで補助だしね」 クロスミラージュ『Yes』 ティアナ「複雑なのはエリオのほうでしょ」 スバル「ストラーダのセカンド。過激だもんね」 ストラーダ『そうでしょうか』 キャロ「私はかっこいいと思うよ、ストラーダ」 ストラーダ『ありがとうございます、レディ』 エリオ「ストラーダと一緒に鍛えていきます。頑張ります!」 なのは「おはよう、ヴィヴィオ。ちゃんと起きられた?」 ヴィヴィオ「うん!」 なのは「おはよう、フェイトちゃん」 フェイト「うん。おはよう、なのは。ヴィヴィオ、なのはさんにおはようって」 ヴィヴィオ「おはよー」 なのは「…おはよう」 フェイト「朝ごはん、一緒に食べられるでしょ?」 なのは「うん!」 ヴィヴィオ「あさごはん?」 なのは「そう。さ、いこっ。…今日のメニューは何だろうね~」 はやて「いやぁ~実はな。今日これから本局に行くんやけど、よかったらティアナも一緒に来とくか?って相談や」 ティアナ「あ…はい」 はやて「今日会う人は、フェイト隊長のお兄さん。クロノ・ハラオウン提督なんよ」 ティアナ「はい」 はやて「執務官資格持ちの艦船艦長さん。将来の為にもそういう偉い人の前に出る経験とか、しといたほうがええかなって」 ティアナ「! ありがとうございます!同行させていただきます!」 なのは「あれ?ティアナは?」 スバル「八神部隊長と同行だそうです。本局行きとか」 なのは「そっか」 スバル「なのはさんも、今日はオフィスですか?」 なのは「そうだよ。ライトニングは今日も現場調査だし、副隊長たちはオフシフトだし、 前線メンバーは私とスバルの二人だけだね」 スバル「…あはは…。何も起きないことを祈ります」 ヴェロッサ「しかし、君の依頼通り、内密で地上本部の中身…ゲイズ中将の周りを調べてみたけど…。 なんというか。本当に面白いくらい、豪腕な政略家だよね」 クロノ「実力者であり、人を惹きつける牽引力もある。優秀な方だとは思う」 ヴェロッサ「本部長からして、彼の後輩だしね」 クロノ「黒い噂が絶えないとはいえ、彼が地上の正義の守護者であるのも事実だ」 ヴェロッサ「企業や政界からの支援も山ほどあり、管理局最高評議会の覚えもめでたい。 こりゃ、確かに、本局としちゃ、扱いの難しい人物だ」 クロノ「そう。うかつな介入はできない。ただでさえ、海と陸。本局と地上本部はことあるごとに仕事…」 クロノ「臨時査察を受けたそうだが、大丈夫だったか?」 はやて「うん。即時査問は回避できたよ。あ、そや。紹介しとくな。うちのフォワードリーダー、執務官志望の…」 ティアナ「ティアナ・ランスター二等陸士であります!」 クロノ「ああ」 ヴェロッサ「よろしく~」 クロノ『前線メンバーにまで、今回の全容を?』 はやて『予言関連はぼかしてあるよ。地上本部が襲われる可能性だけ』 クロノ『なるほどね』 キャロ「テロ行為って…地上本部にですか?」 フェイト「まぁ、そういう可能性がある、って程度だけどね」 エリオ「でも、確かに…管理局施設の魔法防御は鉄壁ですけど、ガジェットを使えば…」 フェイト「そう。管理局法では、質量兵器保有は禁止だからね。対処しづらい」 キャロ「しつりょうへいき?」 フェイト「ああ。おおざっぱに言えば、魔力を使わない物理兵器…でいいのかな。質量物質を飛ばしてぶつけたり、 爆発させたり、先史時代のミッドや古代ベルカは、そういう兵器がほとんどだったの」 エリオ「聞いたことあります。一度作ってしまえば、子供でも使えるとか。指先一つで都市や世界を滅ぼしたりとか」 フェイト「そう。管理局は創設以来、平和のため、安全のためにそういう武装を根絶して、 ロストロギアの使用も規制し始めた。それが、150年くらい前。でも、色んな意味で武力は必要。さて、どうしたでしょう?」 エリオ「あ。比較的クリーンで安全な力として、魔法文化が推奨されました」 キャロ「うん、うん」 フェイト「正解。魔法の力を有効に使って、管理局システムは今の形で各世界の管理を始めた。 各世界が浮かぶ海、次元空間に本局。発祥の地、ミッドチルダに地上本部を置いて」 キャロ「あ~!それが新暦の始まり。75年前」 フェイト「そう。で、新暦前後の一番混乱してた時期に管理局を切り盛りして、 今の平和を作るきっかけになったのが…?」 エリオ「かの、三提督」 キャロ「はぁ~」 エリオ「なるほど~」 フェイト「と、世界の歴史はおいといて」 キャロ「あ、すみません」 フェイト「ガジェットが出てくるようなら、レリック事件以外でも六課が出動になるからねってこと。しっかりやろうね」 エリキャロ「はい!」 フェイト『本当は、エリオとキャロにはもっと平和で、安全な道に進んで欲しかったんだけど』 カリム「情報源が不確定ということもありますが。管理局崩壊ということ自体が、現状ではありえない話ですから」 はやて「そもそも。地上本部がテロやクーデターにあったとして、それがきっかけで本局まで崩壊…… いうんは、考えづらいしなぁ」 クロノ「まぁ、本局でも警戒強化はしてるんだがな」 カリム「問題は、地上本部なんです」 クロノ「ゲイズ中将は予言そのものを信用しておられない。特別な対策はとらないそうだ」 カリム「異なる組織同士が協力し合うのは、難しいことです」 クロノ「協力の申請も内政干渉や強制介入という言葉に言い換えられれば、即座に、諍いの種になる」 はやて「ただでさえ、ミッド地上本部の武力や発言力の強さは問題視されてるしなぁ」 フェイト「だから、表立っての主力投入はできない、と」 クロノ「すまないなぁ。政治的な話は現場には関係なしとしたいんだが」 はやて「裏技気味でも、地上で自由に動ける部隊が必要やった。レリック事件だけで事がすめばよし、 大きな事態に繋がっていくようなら、最前線で事態の推移を見守って」 なのは「地上本部が本腰を入れ始めるか、本局と教会の主力投入まで、前線で頑張ると」 はやて「それが、六課の意義や」 なのフェイ「うん」 カリム「もちろん、皆さんに任務外のご迷惑をおかけしません」 フェイト「ああ、それは大丈夫です」 なのは「部隊員たちへの配慮は、八神二佐から確約を得てますし」 カリム「はい。改めて、聖王教会騎士団騎士、カリム・グラシアからお願いいたします。 華々しくもなく、危険も伴う任務ですが、協力を、していただけますか?」 なのは「非才の身ですが、全力にて」 フェイト「承ります」 フェイト『地上と海の平和と安全。この子達も含めた部隊の皆の安全と将来。 はやての立場となのはが飛ぶ空。全部守るのは大変だけど、私がしっかりしなきゃ。力を貸してね、バルデッシュ』 スバル「でも、ヴィヴィオって…この先、どうなるんでしょうか?」 なのは「ちゃんと受け入れてくれる家庭が見つかれば、それが一番なんだけど」 スバル「難しいですよね。やっぱり、普通と違うから」 なのは「そうだね。……見つかるまで、時間がかかると思うんだ。 まぁ、だから当面は私が面倒見てけばいいのかなって」 スバル「あっ」 なのは「エリオやキャロにとってのフェイト隊長みたいな、保護責任者って形にしとこうと思って」 スバル「いいですね!ヴィヴィオ、喜びますよ!」 なのは「う~ん…喜ぶかな?」 スバル「きっと!」 ヴィヴィオ「???」 なのは「ほら。やっぱりよく分からない」 スバル「えっと…なんていえば分かるのかな?う~んと。つまり、しばらくはなのはさんがヴィヴィオのママだよってこと」 ヴィヴィオ「ママ?」 スバル「え!?いや~その…」 なのは「いいよ、ママでも。ヴィヴィオの本当のママが見つかるまで、なのはさんがママの代わり。 ヴィヴィオは、それでもいい?」 ヴィヴィオ「……」 なのは「うん?」 ヴィヴィオ「ママ」 なのは「はい、ヴィヴィオ」 ヴィヴィオ「ふぇ……うわぁぁぁん~!!」 スバル「え!!ぇ……」 なのは「何で泣くの~。大丈夫だよ、ヴィヴィオ」 ヴェロッサ「ティアナだっけ?」 ティアナ「はいっ」 ヴェロッサ「君から見て、はやては、どう?」 ティアナ「それは…優秀な魔道師で、優れた指揮官だと…」 ヴェロッサ「うん、そっか。はやてとクロノ君、僕の義理の姉カリム。三人は、結構前からの友人同士でね。 その縁で僕も仲良くしてもらってるんだけど」 ティアナ「あ、はい。存じ上げています」 ヴェロッサ「古代ベルカ式魔法の継承者同士だし、何よりはやてはいい子だ。優しいしね」 ティアナ「はい」 ヴェロッサ「妹みたいなものだと思ってる。だから、色々と心配でね」 ティアナ「はい…」 ヴェロッサ「レアなスキルや強力な魔法、高い戦力。人を使える権限や権力。 そういう力を持つってことは、同時に孤独になっていくってことでもある。僕はそう思う」 ティアナ「はい」 ヴェロッサ「もちろん、必要とはされる。頼られもする。だけど、それは人間としてじゃない。 その人が持っている力そのものが必要とされてるだけ。ああ、もちろんこれは極論だよ。 実際は、そんなにデジタルじゃない」 ティアナ「あ、はい。分かります。強い力を持つ者には、そういった重圧や寂しさが付きまとう、と」 ヴェロッサ「そう、それ。コホン。まぁ、つまり、僕の言わんとしてることは、だね。 部隊長と前線隊員の間だと、色々難しいかもしれないけど、上司と部下ってだけじゃなく、 人間として、女の子同士として、接してあげてくれないかな?はやてだけじゃない。君の隊長たちにも」 ティアナ「了解しました。現場一同、心がけるよう努めます」 クロノ「部隊データを改めて確認したが、はやては身内と部下に恵まれてるな」 ヴェロッサ「だね。ティアナも、いい子だった。でも、罪の意識はなかなか消えないんだろうね。 はやては相変わらず、生き急ぎすぎてると思う」 クロノ「この件を無事にクリアすれば、はやての指揮官適性は立証される。闇の書事件についても、言える者は少なくなるさ」 ヴェロッサ「うん」 クロノ「なのはとフェイトがついているとはいえ、心配ではある。こっちでもフォローしてやりたいが」 ヴェロッサ「本局が表だって動いちゃまずいって言ったばかりじゃないか。僕に任せて。 査察官って立場は、秘密行動に向いてるしさ」 クロノ「すまないな。頼む」 ギンガ「現場検証とあわせて、改めて六課からデータを頂きました」 マリエル「この魔方陣状のテンプレート。使ってる動力反応。これまでのものと桁違いに高精度です」 ゲンヤ「間違いなさそうだな」 マリエル「はい。この子たち全員、最新技術で作り出された…戦闘機人です」 ゲンヤ「ふむ… ゲンヤ「やっぱりと言やぁ、やっぱりか。まだ何にも、終わっちゃいねぇんだなぁ」 フェイト「そう。なのはがママになってくれたんだ」 ヴィヴィオ「うん」 フェイト「でも実は、フェイトさんもちょっとだけヴィヴィオのママになったんだよ?」 ヴィヴィオ「ん?」 フェイト「後見人っていうのになったからね。ヴィヴィオとなのはママを見守る役目があるの」 ヴィヴィオ「……なのはママと、フェイトママ?」 なのは「うん」 フェイト「そう」 ヴィヴィオ「ママ」 なのフェイ「はぁ~い」 エリオ「それにしても、なのはさんとフェイトさんがママって…」 キャロ「ヴィヴィオ…ものすごい無敵な感じ…」 スバル「あはは。それなら二人だって、フェイトさんの被保護者で、なのはさんの教え子じゃない」 エリオ「えっと…それはそうなんですけど」 キャロ「えへへ」 ギンガ『あの時の事件は、まだ終わってない。…母さんを殺した、戦闘機人事件』 次回予告 ギンガ「真相に近づいていく事件」 フェイト「親子と姉妹と、ひと時の平和と…それぞれの絆」 ギンガ「次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS第15話」 フェイト「Sisters&Daughters」 フェイト&ギンガ「Take off!」
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/111.html
魔法少女リリカルなのは/魔法少女リリカルなのはA sビジュアルファンブック 魔法少女リリカルなのはシリーズ 魔法/世界観に関する資料
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2879.html
第5話 信じるものの戦い 爆発がテーマパークのあちこちで起こる。 ピエロ仮面が乗るテーマパークの華やかなパレードの車に取り付けられた重火器による攻撃に、バットマンは近づくことが困難となっていた。 ジョーカーは、そもそもバットマンを倒そうという気持ちはない。 時間さえくれば良い…。 そこでバットマンは、思い知るのだ。 自分はいかに無力か…そこで光は闇に墜ちていく。 それを見ることができる…まさに、笑いが止まらない光景を見ることができるのだ。 都内では、ジョーカーから解放された人たちが、口にはガムテープ、手を縄で縛られた状態で彷徨っている。 助けを求める、その人間たち…その身体には爆弾が仕掛けられたもの、逆に、まったく無害なものが混在し…街を歩く。 一般市民は怯え、どうして良いのかわからずに戸惑い、立ち尽くす。 助けるべきなのか?自分の命のために逃げるべきなのか? 本当なら、答えはない。だが…ジョーカーはこう思うだろう。 見捨てるものは、結局、わが身可愛さで、その人間を殺めた殺人者となんら変わりはないと。 光と闇は常に正反対でありながら、密接に関係している。 人間の心は、この二つの存在に揺れ動かされながら…存在しているのだ。 目の前で、助けを求める存在…。 だが、それには、爆弾が仕掛けられているかもしれない。 自分の身を危険に晒すことになったとしても、助けようとするものが、この安全の国、日本において…どれだけいるだろうか? ジョーカーの問いかけは、そこにある。 テレビを前にして戦争の光景を見て、『可哀想だ』『戦争はやめよう』と容易くえるのは、所詮は第三者としての視線でしかない。 その環境、情勢を知らずに、容易く言うことは、そこにいるすべてのものに対しての冒涜なのだと…。 さんざん自分を笑いものにした第三者の国は、今まさに自分たちが、その当事国となった。 今度は自分たちが他の国に、興味の目に晒され『可哀想だ』『何も出来なかったのか?』と言われることになる。 「…結局は、俺たちのやっていることなんかショーなのさ!バットマン。誰もお前に同情するものなどいないし、誰もお前を助けるものなんかいないのさ」 ジョーカーの部下であるピエロ仮面の機銃掃射を前にして、人間爆弾の制御スイッチを持つジョーカーに近づけないでいた。 時間はあまり残されていない。 「フハハハハハ!焦っているか?焦るだろうな、お前は無力だ、たった一人で、何も出来ずに、くたばれ!!」 ジョーカーは頭をあげて、大声で笑う。 そんなジョーカーの視線に入るもの…笑い声は途切れ、目を丸くする。 視界に入ったのは、月が見える夜空に浮かぶ、白き女の姿。 その女は、槍のようなものを握り、こちらに標準を定める。 そして空から放たれた巨大な光が、ジョーカーの乗るパレードの華やかしい車を貫き、少しの間をおいて、爆音とともに、火の玉となる。 「はああああ!!!」 他のパレード用の車も、黒き女の持つ巨大な剣の形をした道具により、切り裂かれる。 ピエロ仮面は爆発に逃げ惑いながら、爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる。 空から降り立つ白い服の女…高町なのは。 切り裂いた、黒き服の女…フェイト・T・ハラオウンがバットマンの前に立つ。 なのはとフェイト…2人の視線の先にいるジョーカーは、立ち上がり、埃を払う。 「……ックックック、素晴らしい、素晴らしいな~~その力…。君たちの力を持ってすれば、俺など容易く殺せるだろう?」 ジョーカーは拍手をして、目の前の二人に頭を下げる。 ジョーカーは、自分の前に集ったバットマン、そしてなのはとフェイトを見つめながら、 紅蓮の炎の光に照らされつつ、ゆっくりと歩き出す。 「ここまできたお嬢さんたちには、ひとつ、教えてあげないといけないな」 ジョーカーは、歩きを止めて振り返りなのはとフェイトのほうに視線を向ける。 「お嬢さんの、娘…名前はヴィヴィオだったか」 フェイトは怒りを感じ、拳を強く握る。 自分たちのせいで巻き込んでしまったヴィヴィオ。 彼女を早く救い出したい。彼女を助けたい…。 その気持ちを抑えこむ反面、相手に対する憎悪は増していく。 「かわいらしい子だ。フフフ…、お嬢さんのことを何一つ話そうとはしなかった。 きちんと教育をうけたいい子だったな。どんなに痛めつけようが、苦しめようが…… 涙を堪えて話さない姿……俺は、感動さえ覚えたよ。フフ…フハハハハハハハ」 「くっ!!」 聞くに堪えないその言葉にフェイトは道具であるバルデッィシュを握り、距離を縮め相手を切り裂こうとした。 だが、そのフェイトの行動を察知したのか、 なのはが握るレイジングハートがフェイトの身体を抑えるように前に出される。 「…怒り、憎悪を表に出せばあいつの思う壺だ」 後にいるバットマンは、冷静に告げる。 「わかってはいるけど……」 「いや、君じゃない。本当に怒りで我を忘れかけているのは、むしろ…もう1人のほう」 フェイトは隣にいる、なのはを見る。 なのはは冷静そうな顔をしているが、レイジングハートを握っていないもう1つ手は怒りを抑えるために、 強く拳を握りすぎたためか、血が流れて、地面にと落ちている。 「…何も躊躇う必要はないぞ。俺は丸腰も同然…。お前の力を持ってすれば、俺など蝋燭の火を吹き消すように、 一瞬で終わらせられるだろう。フフフフ……」 ジョーカーは、高町なのはにターゲットを定めた。 怒りと憎悪は、あの黒き女よりも強く根深い…。 バットマンに見せてやれる、光が闇に落ちていくさまを…。 「それは、俺にだけ向けられるものではない。この国の警察官が、お前の娘を助けるためになにをした? 動揺を煽り、今も事態は進行中……誰も助けられない、誰も、救えない。 クフフフフ……、お前たちの力を持ってしても、1人の人間を助けることも出来ないんだ。 ならば、なんのために戦う。なんのために…。 お前が倒すべき敵は俺ではなく、無能で理不尽なこの世界じゃないのか?」 「あいつの話を聞くな…」 バットマンは正面に立っている、なのはに言う。 怒りにすべてを忘れてはいけない。 ジョーカーのペースに乗ってはいけないのだ。 だが、彼女は、それができるのか? やはり…ここは、自分がジョーカーを止めるしかない。時間も迫っている。 「…私は」 なのはは、ジョーカーに向かって語りかけるように声を出す。 それは憎悪も怒りも感じられない…。 「…私の力は、そんなに強いものじゃない。私1人の力でできることは、あまりにも少ない。 だけど…、大切な仲間がいれば、1人じゃ出来なかったことも…できるようになる。不可能が可能となる」 なのはは、隣にいるフェイトを見つめる。その表情は、穏やかなもの……。なのはは、知っている。 今まで戦いで…フェイトから、そして、はやてと戦って得た強い絆。 1人で苦しんでいたことも…同じように受け止めてくれる人がいること… それがどれだけ自分にとって強い力となるか。 「…私は、あなたのようにはならない」 強い眼差し…その眼を見て、ジョーカーは唸り声をあげる。 なのはが自分を見る目、それは…哀しみの目。 そう自分を哀れむ目…。 「そんな目で俺をみるなぁ!!!」 ジョーカーは、そういうと以前、フェイトに使った手榴弾のようなガスをだすものを投げつける。 しかし、それはフェイトにより、切られる。 ガスをださないように、起爆装置だけを完全に…。 「なに!?」 驚くジョーカーは、逃げ出そうとするが、その足にワイヤーが巻きつけられる。 バランスを崩し倒れるジョーカー。 バットマンの放ったそれに、ジョーカーは今度こそなすすべなく、捕まる。 バットマンは、なのはとフェイトを追い抜き、ジョーカーを見下す。 「フハハ…、アハハハハハハハ…。気持ちがいいだろうな、蝙蝠男。 俺が、あんなガキにやられるさまは?」 「……ジョーカー、人質を解放しろ」 バットマンはジョーカーの問いには答えず、時間が迫っている人間爆弾について聞く。 「…ヴィヴィオは、どこ?」 なのはも、ジョーカーに問い詰める。 ジョーカーは…心のどこかでは焦っているであろう二人に向かって、笑いながら…。 「いいだろう、教えてやる…起爆装置はジェットコースター内にある。 お嬢さんの娘が座っている座席そのものだ。 お嬢さんが座席から降りた瞬間、どかーんと吹き飛ぶ、だが…ジェットコースターも一定速度が落ちると爆発するようセットされている。 どっちを助けたいか、お前たちで選べ…。 おっと、二つとも、時間が来れば勝手に爆発することも忘れずにな。 フフフ…フハハハハハハハハ」 ジョーカーの襟首を捕まえ、身体を起こさせる、バットマン。 「貴様、他に方法はないのか?」 「ない。一人の命を助けるか、多くの人の命を助けるか、好きなほうを選べばいいさ~ヒヒヒヒャハハハハハハ」 バットマンはジョーカーの襟首を離す。 テーマパークにあるジェットコースター…。 ジョーカーとバットマンが戦いはじめたときから、動いているそれは、もう既に30分以上が経過しようとしていた。 ヴィヴィオは目を伏せて、酔わないようにしている。 そのヴィヴィオの座っている真下…そこに起爆装置が赤く点滅している。 ヴィヴィオの重さにより、1つの起爆装置は止まっているが、もう1つ…それはジェットコースターの速度に反応している……。 「…卑劣な」 フェイトは吐きすてるように言う。 なのはは、ジェットコースターがある方角を見る。 「どうするつもりだ?」 バットマンはなのはと、フェイトに問いかける。 なのはとフェイトは、バットマンのほうを見て 「…両方を助けます」 「今までそうしてきたように……」 バットマンは二人の言葉を聞き、なのはとフェイトが空を飛んでヴィヴィオを助けにいくのを見送る。 今の彼女達に言うことは何もない。 強き心…自分の行いを信じ、そして今の自分にはない、大切な強い仲間がいることが……その心の力を何倍も倍増させる。 普段、人を信じることをしない、私も今日だけは信じてみよう。 信じる心を持つものの、力を。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2194.html
――上を向いて歩け、スバル! お前の拳は天を突く!! 一面に広がる廃墟――否、これは魔法で造り出された立体映像に過ぎない。 時空管理局第七特別演習場――魔導師昇級試験、Bランク試験会場。 虚構の街の中心に寝転がり、スバル・ナカジマは空を見上げていた。 右手に着けたグローブ、左腕に結んだ白い鉢巻き、両足に履いたローラーブーツ、そして懐にしまったペンダント……。 自分の勝負アイテムとも言える装備を一つ一つ指先でなぞり、スバルは再び空に視線を戻す。 ……ティアナ・ランスターの顔が、青空を覆い尽くしていた。 「まぁーた空見てんの? アンタは……」 そう言って自分を見下ろす親友の呆れ顔に、スバルは億劫そうに上体を起こした。 「ティア……もう時間?」 スバルの問いにティアナは時計を取り出し、「あと10分」と短く答える。 「それじゃーあと5分はゆっくり出来るね。その後全力で走れば余裕で間に合う」 そう言って再び倒れかかるスバルの身体を、ティアナは慌てて捕まえる。 「まったく……アンタってホントに空が好きよねー」 呆れたような声と共に差し出されたティアナの手を掴み、スバルはゆっくりと立ち上がった。 別に空が特別に好きという訳ではない――ただ上を向いて歩いていたら、自然と空が目に入ってくるだけだ。 四年前、アンチスパイラルの空港爆破テロにスバルは巻き込まれた。 その当時のスバルは弱く、ただ泣くことしか知らない無力な子供だった。 逃げ遅れ、炎と瓦礫の海の中に独り取り残されたあの時も、スバルはただ悲鳴を上げ、家族を呼びながら泣き叫ぶことしか出来なかった。 そんな時だった、スバルがその人と出会ったのは……。 ――コアドリルインパクト!! 気合いと共に瓦礫の壁を突き破り、『あの人』はスバルの前に現れた。 顔は覚えていない、声もはっきりとは思い出せない。 ただ青いコートに隠れた大きな背中、そこに描かれた『あの人』のエンブレム――炎とサングラスを組み合わせたあのマークだけは、しっかりと心に刻み込んだ。 スバルの憧れた『あの人』との出会いは唐突で、そして一瞬だった。 気がつけば『あの人』はスバルの前から姿を消し、スバルはその後、もう一人の憧れの人――高町なのはに救助された。 あれは夢だったのではないか……今でも時々、スバルはそう思うことがある。 しかし『あの人』は確かに、あの日、あの場所にいた。 ――上を向いて歩け、スバル! その言葉と共にあの時『あの人』から託されたペンダント――金色に輝く小さなドリルが何よりの証拠だった。 その日以来、スバルは上を向いて歩き続けた、上を向いて生き続けた。 逃げない、泣かない、振り返らない、そして立ち止まらない。 ただ己の道をまっすぐ突き進む。 『あの人』も言っていた――自分の拳は、天を突くのだから! そして……スバルは今、ここにいる。 「ティア……征こうか」 左腕の鉢巻きを額に巻き直し、スバルはティアナを――無二のパートナーを振り返る。 迷いも曇りも無いスバルの瞳――その奥で輝く相棒への絶対の信頼に、ティアナもまた力強く頷いた。 「当ったり前でしょ、馬鹿スバル」 Bランク昇級試験、実技審査。 絶対に合格する――二人はそう決意を固めるのだった。 実技試験は、簡単に言えば障害物競走のようなものらしい。 中空のウィンドウに映る試験官――リインフォースⅡ空曹長の説明を、スバルとティアナはそう結論付けた。 コース各所に設置されたポイントターゲットを全て撃破し、ゴールに辿り着く。 制限時間内にゴール出来なかったり、一体でも破壊に失敗、またダミーターゲットを破壊してしまった場合は失格となる。 試験の概要としてはこのようなものだが、やはり障害物競走という印象は拭えないというのが二人の感想である。 『――ではスタートまであと少し、ゴール地点で会いましょう』 ウィンドウが切り替わり、試験開始用のシグナルが表示される。 三つの光点の内一つが消え、二つ目、そして――、 『スタート!!』 リインフォースⅡの合図と共に、二人は無人の街へと繰り出した。 ハイウェイを疾走する二人の前に、最初のターゲット――人間大の顔に手足を付けたような不恰好なロボットが現れる。 その数、三つ。 ガンメン――時空管理局が作業用に開発した新型の自立行動型魔導機械である。 未だ試験段階ではあるものの、被災地での救助活動や危険地域でのロストロギア回収作業など、その活躍が期待されている――らしい。 ニュースで見た時には二人揃って「これ明らかに戦闘用だろ」と断言したスバルとティアナだったが……どうやらその認識は間違っていなかったらしい。 救助だの探査だのといった「建前」的な目的よりも、こうして銃器で武装している方が遥かに似合っている――ガンメンという兵器は。 「ティア、援護よろしく」 背後の相棒に一言言い置き、スバルはローラーを噴かせた。 右手のグローブ――母の形見の篭手型デバイスが唸りを上げ、手首部分のタービンが紫電を飛ばしながら激しく回転する。 ……アンダーウェアの下のペンダントが、脈動するように光を発する。 「リボルバーシュート!!」 気合いと共にスバルは更に加速し、先頭のガンメンに砲弾のように突っ込んだ。 拳が敵の装甲に文字通り突き刺さるが、スバルはまだ止まらない。 腕が、上半身が、全身がガンメンを貫き、突き破る……! 「あたしを誰だと思ってる!!」 雄々しく吼えるスバルの背後で、無残に破壊されたガンメンが爆破四散する。 まず、一体。 ……まだ身近にもう二体残っていることを、スバルはすっかり失念していた。 接近戦に切り替えたのか銃器を捨て、残りのガンメンが左右からスバルに襲い掛かる。 「げっ……!」 敵の思わぬ奇襲にスバルは蛙の潰れたような声を上げるが、それでも反射的にガンメンの片割れを殴り飛ばした。 しかし残るもう一体の鉤爪が、隙だらけのスバルの背中に迫る。 その時、 「こ……んの、馬鹿スバル!!」 怒号と共に放たれた光の弾丸が、ガンメンに眉間を貫いた。 「ティア!」 窮地を救われたスバルが満面の笑みで後方の親友――二挺拳銃を構えるティアナを振り返った。 ……修羅がいた。 「スバル! アンタ馬鹿ぁ!? 呑気に格好つけてて不意打ち喰らいかけるなんて馬鹿にも程があるわよこの馬鹿!!」 「三連発で馬鹿って言われた!?」 「四連発よ! そして今から五回目を言ってやろわ……この一分一秒にも時間はどんどん減ってるんだから、へらへら笑ってないでとっとと進め馬鹿スバル!!」 ティアナの雷から逃げるように、スバルは慌てて身を翻した。 協調性――実際の連携はともかく――に多少の問題は見られるものの、概ね順調にコースを進む受験生達を、はやてとフェイトは試験場上空の管制ヘリから見守っていた。 はやてが目をつけた二人の新人――この試験の結果次第では新部隊の前衛への引き抜きも考えている、期待の人材である。 「小型ガンメンをどれもほぼ一撃で破壊か……新人にしては中々やるね」 好意的に二人を評価するフェイトに、はやても頷く。 「せやな。正面突破してるスバルちゃんも凄いけど、ティアナちゃんも低い攻撃力でよー頑張っとるわ。装甲の継ぎ目とか、ガンメンの弱点を的確に狙い撃ちしとる」 「逆に言えば、そういう面ではガンメンも改良の必要ありってことだけどね」 和やかに談笑する二人に割り込むように、その時、試験監督中のリインフォースⅡからの通信ウィンドウが開いた。 『お二人ともなごんでるところに恐縮なんですが、ちょっと報告したいことがあるんですけど……』 「リイン? どないしたん?」 首を傾げるはやてに、リインフォースⅡは困ったような表情で報告する。 『受験生のスバル・ナカジマさん――鉢巻き巻いてる方の娘なんですけど、彼女から断続的に螺旋反応が検出されてるんです』 リインフォースⅡの言葉に、二人は驚愕に目を見開いた。 螺旋力――半年前、時空漂流者ロージェノムからもたらされた、魔力とは根本から異なる未知のエネルギー。 この謎の力について現時点で判明している事実は三つ。 螺旋力の発現には特別な才能や資質を必要とせず、しかもAMF下でも問題なく発動可能――理論上は、いつでもどこでも誰でも使用可能であるということ。 全次元世界共通の敵――アンチスパイラルの尖兵ムガンに対して、螺旋力を利用した攻撃が現状最も有効であるということ。 そしてもう一つ、アンチスパイラルは螺旋力を絶対的な敵と見做し、その存在を許していないということ。 それはつまり……、 「はやて……私、何か嫌な予感がする」 険しい表情でそう口にするフェイトに、はやては同意するように首肯する。 「フェイトちゃん。念のため、いつでも出撃られるようにしといてや。なのはちゃんの方にも連絡入れとくわ」 アンチスパイラルと敵対する次元世界にとって、螺旋力は希望を掴むパンドラの箱である。 しかし同時に破滅を呼び込む禁断の果実にも、螺旋力はなり得るのである。 「うおおおおおぉっ! リボルバーシュート!!」 人間砲弾と化したスバルが、ガンメンを三体纏めて突き破った。 その傍らではティアナが、宙に浮かぶ巨大な顔――飛行型ガンメンを一体ずつ撃ち落としている。 障害物競走も佳境に入り、コースを進み、標的を破壊する二人の身にも力が入る。 しかし同時に、これまでの戦闘での疲労やダメージも、徐々にではあるが確実に蓄積していた。 「あぁ~、ちょっと休憩……」 「そんな時間無いわよ。休みたいならさっさとゴールする!」 地面に座り込もうとするスバルを叱咤し、しかしティアナ自身も疲労に息を吐いた。 後方からちまちま援護している自分もこれだけ疲れているのだ、自分自身を弾丸代わりに特攻しているスバルの消耗は並ではないだろう。 しかし、制限時間もあと僅か、ここで立ち止まっている暇は無い。 酷なことかもしれないが、無理をしてでも前に進まなければならないのだ。 先に進みたいのならば、夢に近づきたいのならば。 「ほら、行くわよスバル」 そう言って手を差し伸べるティアナの背中の向こうで、その時、何かが光った。 咄嗟にスバルが地を蹴り、押し倒すようにティアナを組み伏せる。 「ちょっ……スバル!?」 狼狽するティアナの目の前を、一筋の閃光が突き抜ける。 魔力弾――否、今のは何かが違う。 体勢を立て直しながら敵の奇襲を分析したティアナは――隣で立ち上がるスバルも――次の瞬間、上空から自分達を見下ろす『敵』の姿に愕然とした。 円と直線で構成される無機質なシルエット、不気味に発光する結晶状のボディ――今の二人にとっては想定外の、しかしいずれは相対していたであろう、明らかな『敵』。 「「アンチスパイラル……!」」 その尖兵――ムガン。 それも一体や二体ではない――百、二百、それ以上の大群である。 最初に動いたのはスバル達でもムガンでもなく――フェイトだった。 デバイスを起動しながら管制ヘリから飛び降り、鉄砲玉のように敵陣の真ん中に突っ込む。 大剣型に変形したバルディッシュが魔力の刃を形成し、伸びる、伸びる、伸びる――! 「このおおおおおおっ!!」 限界まで魔力を注ぎ込んだ魔力刃――もはや巨大な光の柱としか見えぬそれを、フェイトは気合いと共に振り下ろした。 その一撃でダース単位のムガンが切り裂かれ、周囲の味方を巻き込みながら爆発する。 その光景にまずスバルが我に返った。 グローブに覆われた右拳を握り締め、単身敵軍と睨み合うフェイトに助太刀しようと走り出す――前に、ティアナに後ろ襟を掴まれ阻止された。 「……ちょっとティア、放して欲しいんだけど?」 「アンタ馬鹿ぁ!? Cランクの下っ端でしかもバテバテでついでに馬鹿なアンタがしゃしゃり出ても足手纏いにしかならないわよ!! 余計なこと考えてないで、さっさと逃げるわよこの馬鹿スバル!!」 お前の考えはお見通しだとばかりに怒鳴り散らすティアナの剣幕に、スバルは観念したように走り出した――後ろへと。 『受験生のお二人さん! 緊急事態です!!』 コースを逆走するスバル達の前にウィンドウが開き、慌てたような顔のリインフォースⅡが映し出される。 『アンチスパイラルの大量出現により、この辺り一帯は第一級戦闘区域に指定されました! 試験は中止、二人は早く逃げて下さい!!』 「「もう逃げてます!!」」 切羽詰ったようなリインフォースⅡの警告に、二人も必死な形相でそう返した。 ムガン達の身体に光が集束し、ビームの砲弾が撃ち出される。 スバル達を狙い――フェイトを無視して――放たれた攻撃は、その大部分がフェイトの魔法によって相殺された。 しかし僅かに撃ち漏らした一部の生き残りが、流星のように二人の頭上から降り注ぐ。 「やばっ……!」 スバルはティアナを後ろから抱え上げ、ローラーを全力で噴かせて砲撃の雨の隙間を掻い潜る。 「ちょっとスバル、何すんのよ!? アンタに抱かれて無人の街で大量の無機物と追いかけっこなんて……羞恥プレイにも程があるわよ!?」 腕の中のティアナが赤面しながら抗議しているが、スバルは無視して更に加速する。 両脚のローラーが過負荷に悲鳴を上げ、バチバチと火花を飛ばしている。 「ムガン……まだ追って来てる?」 振り返らず前を見据えたまま、スバルはティアナに尋ねた。 その問いにティアナは顔を上げ、スバルの肩越しに背後を確認する。 「……ばっちり、相変わらず、ストーカーみたいにぞろぞろついて来てるわ。試験官の人が足止め頑張ってくれてるけど、攻撃防ぐのに手一杯みたい」 ティアナの現状報告に、スバルの顔に焦燥の色が浮かぶ。 ローラーはもう限界に近い……そう長くは走れない。 もう、逃げられない……。 自分の最も嫌いな選択肢を進んでいる上、その道すらも壁に阻まれかけているという現実に、スバルは歯噛みした。 その時、ムガンの一体がフェイトの頭上を飛び越え、二人を目掛け降下を始めた。 体当たりによる自爆攻撃――否、あの大きさと重量で押し潰すつもりだ。 フェイトは撃ち落そうとバルディッシュを構えるが、ある一つの懸念が引き金にかかる指先を躊躇させる。 ここであれを破壊すれば、爆発に二人も巻き込んでしまう……! 迷うフェイトを嘲笑うように、ムガンはスバル達の頭上に迫る。 その時、不意にスバルが立ち止まった。 腕に抱いたティアナを解放し、迫り来るムガンを無言で見上げる。 ムガンを睨むスバルの眼に光る、決意の炎にティアナは気づいた。 まさか……!? 嫌な予感に襲われるティアナだったが、その予感は正しかった。 スバルの右手のデバイスが起動し、タービンが紫電を放ちながら高速回転する。 まわる、回る、廻る――! 尚も回転数を上げていくタービンに呼応するように、荒れ狂う紫電の渦がスバルの周囲を暴れ回る。 ……懐のペンダントが、鼓動している。 暴走するように唸りを上げる右拳を握り締め、次の瞬間、スバルが跳んだ。 その常人離れした脚力で重力に逆らい、ムガン目指して垂直に跳ぶスバルを、直後、ムガンのビームが呑み込んだ。 「スバル!!」 無慈悲に放たれた死の光に消えた親友に、ティアナは悲痛な叫びを上げる。 しかし涙と絶望に濡れたその顔は、次の瞬間、驚愕に塗り潰された。 スバルは……生きていた。 ムガンのビームを拳で受け止め――寧ろ逆に突き破りながら、尚も上昇を続けている。 その姿は、固い岩盤を掘り進むドリルに似ている……ティアナはそう思った。 「あたしの拳は――」 ビームの壁を貫きながら、スバルが咆哮を轟かせる。 その拳は遂にムガン本体まで辿り着き、表皮を突き破り、奥へ奥へと前進を続ける。 そして遂に、スバルはムガンの身体を貫通し、 「――天を突く!!」 大空の中、太陽へと名乗りを上げるスバルの背中で、ムガンが爆炎と共に消滅した。 「あたしを誰だと思ってる!!」 無事に着地し、決め台詞と共に格好つけるスバル――その足元が、次の瞬間、音を立てて崩れ落ちた。 突然の地面の崩落はスバルだけでなくティアナをも巻き込み、 「そんな、何このオチぃいいいいいいいいぃっ!?」 「ちょっと、何でアタシまでぇえええええぇっ!?」 ……間抜けな悲鳴を残して、二人は奈落の底へと消えていった。 天元突破リリカルなのはSpilai 第3話「あたしの拳は天を突く!!」(了) 戻る目次へ 次へ